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『道浦TIME』

新・ことば事情

6815「『徘徊』という言葉について」

ことし4月、関西テレビの用語委員のMさんから、こんなメールが届きました。

「先日の朝日新聞に、認知症による『徘徊』という言葉について、『朝日新聞では使わないようにする』という興味深い記事が出ていました。気を付けないといけないということで、部内で情報を共有しました。(以下のアドレス)

https://www.asahi.com/articles/ASL3N6H64L3NULZU015.html

病院、施設では普通に使われているようですが、今後どうなるのでしょうか?」

ということで、各社の用語委員の皆さんに、メールでご意見を伺いました。

『徘徊』という言葉は使わないでほしいというような要望が、認知症患者を介護する家族からの要望があるという記事を読んだのですが、『徘徊』は使わないようにしているとか、その件に関して何か話し合いをされたということは、ありますでしょうか?読売テレビでは、まだそういう話は出たことがございません。ご教示下さい。よろしくお願いします。」

これに対する各社からのお返事は(同じ社の別の方からお返事を頂いたものもあります)、

まず「『徘徊』を使うのをやめた」という「朝日新聞」の委員からは、

<朝日新聞>

弊社は、ことし3月15日付で「認知症の人の外出を『徘徊』としない」旨の社内通達を出し、3月25日付朝刊1面トップで認知症の記事を扱うとともに「朝日新聞は今後の記事で、認知症の人の行動を表す際に『徘徊(はいかい)』の言葉を原則として使わず、『外出中に道に迷う』などと表現することにします」というおことわりを掲載した。

というものでした。それ以外の各社は、

<フジテレビ>

私も「徘徊」に関する記事を読んだ。おそらく同じ記事だと思う。ただ、これに関して何か検討しているということはない。過去に「徘徊」の使用例もある。もし検討を始めるとすると、もう少し言い換えが世間に浸透してからになるだろう。

<読売新聞>

朝日新聞は言い換えているが、読売新聞では今のところ、そういう話は出ていない。

<テレビ朝日>

「徘徊」は、特に配慮していない。「取材の上で、認知症患者個々の家族の心情を鑑みる必要があった場合のみ配慮する」ということでよいのではと思う。

ざっとgoogle検索したが、各行政・市町村の認知症対応HPでは「徘徊に悩む場合」「徘徊の相談窓口」など「相談・ケース紹介・医療アドバイス」など様々な面で「徘徊」が使われている。「認知症支援団体」のHPでは、一部に「混乱する」「道が判らない」などの表現を先にする気遣いを感じるページもあるが、「徘徊」の問題・対応策紹介は厳然としてある。思うに「うちのおばあちゃんが徘徊をし始めて~」という話は、聞かれたくない家庭もあるかと思う。そのような場合で個別に「徘徊」があることを隠したい、「徘徊」癖があることを初期段階で本人に悟られたくない等、ケース・バイ・ケースかと。そのような個別取材では「徘徊」という表現を避ける必要もあるのではないか。

一方で、「徘徊」は介護での大きな問題だから、ご近所に知ってほしい・見かけたら知らせてほしい家庭もある。だから、世間一般での「悩み」「対応」などでの表現では使用可能と思う。ちなみに「未成年の深夜徘徊」などの防犯上表現、弊社のマツコ・デラックス氏による番組『夜の巷を徘徊する』という番組名など「うろつく」意味の「徘徊」は、必要があれば当然使用している。

<テレビ朝日>

弊社では、特に決まりはない。ただ、認知症患者や高齢者を揶揄する文脈の場合には、一定の注意を促すことになる。文脈で判断するというスタンス。

<毎日新聞>

少なくとも校閲に届いたメールでは「徘徊」についての要望は見いだせない。取材部門に1人だけ「おぼろげな記憶で、見たことがある」と言っていた。だから使わなくしようという議論には至っていない。

ということで、全体的には、まだ「徘徊」の言い換えに関する機は熟していないようですが、ケース・バイ・ケースで、一定の配慮は必要なのでしょうね。

(2018、6、6)

2018年6月 6日 20:44 | コメント (0)