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『道浦TIME』

新・ことば事情

6705「ゴールマウス」

2月9日に開かれた新聞用語懇談会放送分科会で関西テレビの委員から質問が出ました。

『「ゴールマウス」という言葉について、フジテレビ系列の「用語ハンドブック」では、「ゴールエリアまたはゴール前の守備側にとって危険なエリア。「ゴール」は含まない。『ゴールマウスに吸い込まれる』は誤り」と記されている。しかし「ゴールそのもの」を指すことを認めている系列も少なからずあるようで、完全に「誤用」とは言い切れないのではないか?という意見がアナウンサーの間から出ているが、各社はどのように対応しているか?」

これに対する各社の回答は、以下の通りです。

(NHK)複数のスポーツアナウンサーに聞いてみたところ「この言葉は使わない、使ったことがない」とのこと。「ゴールマウス」は「ゴールの正面・周辺」を指すので、「ゴールそのもの」を指すときは「ゴール」と言えば良い、とのこと。

(日本テレビ)スポーツアナウンサーが実況ではあまり使わない。短いスポーツニュースでは出てくる。「ゴールそのもの」は含まれないの「ゴールマウスに吸い込まれる」は「×」。

(テレビ朝日)定義なし。スポーツアナウンサー2人に聞いたところ「(ゴール周辺の)空間を指す」と。しかし「ゴールマウスに吸い込まれる」は使っている。日本サッカー協会に問い合わせたところ、「ゴールマウス」は基本的に使っていないので、用語ブックには載せていないと。「ゴールマウス」は「ゴールの前の地面」のことだと、元・日本サッカー協会会長の故・岡野俊一郎氏が力説していた。シュートが「ゴールマウスに飛んだ」は「ワクに飛んだ」と言えば良い。

(TBS)用語ハンドブック等には書いていないが、スポーツ担当アナウンサーに聞いたところ「『ゴールそのものを指してゴールマウス』『ゴールマウスに吸い込まれる』という表現は、決してあり得ない!」と強い口調で言われた。日本サッカー協会が、昔そういう趣旨のことを書いた紙を配ったように思う、と。しかし、短いスポーツニュースでは、使っていたのかもしれない。徹底されているかどうかは、わからない。

(テレビ東京)Jリーグができて2~3年後頃に、サッカー用語の勉強会をやった。その際に「センタリング→クロス」「グラウンド→ピッチ」などの用語の説明があった。

(フジテレビ)サッカー実況担当のベテランアナウンサーに聞いたところ、「ゴールマウスは、ゴールそのものではない。しかし範囲は、あいまい。故・岡野元会長も「『ゴールマウス』は『ゴールそのもの』ではないということを強調してほしい」と常々口にしていたと。

(テレビ東京)「ゴールマウス」という表現は、あまり使わない。「ゴールそのもの」だと思っているアナウンナーも混在している。故・岡野元会長は、金子勝彦アナウンサーとの対談でも「ゴールそのものではない」と言っている。

(ABC)「ゴールマウス」=「ゴールのワク」の意味では使わない。

(MBS)若いアナウンサーは「ゴール」=「口」に見えることから「ゴールマウス」=「ゴールそのもの」と思っていた。

(ytv)ベテラン元スポーツアナは「個人的には、『エリア』という認識より、『ゴールの枠を含み得点とされるネットまでを意味している』とばかり思っていました。『ゴールマウス』は『ゴールの枠』が『口腔』をイメージした表現かと。今回の『手前のエリア』というのは『?』です」という意見や、現役のベテランスポーツアナウンサーは、「かつては、ゴールマウス=ゴール枠(ポスト+クロスバー)のイメージで使っていた時代もありました。しかし、最近は用語の整備がJリーグ主導で進んできたことと、日本テレビ・高校サッカー担当アナによる用語整備も進み、『ゴールマウス』という用語自体を使わない方向に進んでいます。『ゴールマウス』が示す意味が曖昧なことが理由です。」

とのことだった。

(TVO)元・NTV系列で高校サッカーの実況もやったが、昔は『ゴールマウス』という言葉自体なかった。若いアナウンサーが「ゴールマウス」を使うのでは?当初は「エリア」を指していたが、最近はGKなど選手自体が「ゴール」の意味で「ゴールマウス」を使うのではないか?

(時事通信)使用例はほとんどなかったが、「ゴールマウスに吸い込まれた」という記事はあった。2002年5月15日に配信した記事で「(日本サッカー)協会がガイドライン」という見出しがある。ここでは「ゴールマウス=枠ではなくエリア」とされているが、「強制するものではないが、協力を要請したい」と記されていた。

(共同通信)混乱している。「ゴールマウスに吸い込まれた」「ゴールマウスを破ることはできなかった」という記事も出てくる。英語の辞書の表記も混乱しているようで、「ゴールマウス」は『ジーニアス英和辞典』では「ゴールポスト」、『オックスフォード英英辞典』『コンコルド英英辞典』『リーダース英英辞典』は「エリア」になっていた。運動部は「ゴールマウス=エリア」という立場で、今後は「ゴールマウスに吸い込まれた」は「×」とする。

ということで、各社あまり「ゴールマウス」という言葉は「使わない」という傾向のようです。目にしたり耳にしたりすることはありますけど。「ゴールそのもの」のことではなかったのですね。

(2018、2、16)

2018年2月19日 11:46 | コメント (0)