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『道浦TIME』

新・ことば事情

6445「署名の数え方2」

2008年の7月に書いた「平成ことば事情3317署名の数え方」の続編です。

その後「ミヤネ屋」では、こんな感じで「筆」が出て来ていました。

★2008月12月12日

市岐商の原稿で「署名」の数え方は、

×18万通→○18万筆、18万

~「署名」の「助数詞」は「筆(ひつ)」です。しかし、あまりなじみがないだろうと思い、原稿では「通」を落として数字だけで、「18万もの署名が」と読みました。

★2009年2月25日

パネル「医薬品のネット販売規制」、署名の数(放送は明日に延期予定)

×署名総数約57万件→〇署名総数約57万筆

~署名を数える助数詞は「筆(ひつ)」です。「57万筆」の「筆」の読み方は「ぴつ」あるいは「ひつ」。それ以外に「57万人分の署名」というような言い方もあります。

★2009年3月18日

闇サイト殺人事件の裁判で、

「署名を呼びかけ続けた富美子さん。その数はおよそ32万人分に上った」

という原稿、「署名」の助数詞は、本来は「筆(ひつ)」ですが、「〇人分」も許容ですね。

また、去年秋(2016年11月)の富山での「用語懇談会総会」でも、熊本日日新聞の委員から議題に上がりました。

『有権者や市民が行政や議会に提出する署名活動の数え方を巡り、「○人分」ではなく「○筆」という言い方を見かけるようになりました。小紙のデータベースでは2013年に自社記事で初めて見られ、以後何度か掲載されています。共同通信の配信記事も過去にいくつか掲載例があり、共同通信では署名の単位=「筆」は許容しているとのことでした。ただ、手元にある『広辞苑』『日本国語大辞典』などでは、「筆」は土地の単位であり、署名を数える意味はありません。(その後『三省堂国語辞典』と、2004年に出た飯田朝子さんの『数え方の辞典』(小学館)の115ページに「署名は『筆』で数える」と記載があると聞きましたが、未見です)熊本県市町村課によれば、「条例等では署名を数える単位を定めていない。通常数える時は『人』または『件』としている」。一方、署名を集める側の市民団体等では「筆」の数え方があるようです。小紙ではこれまで、自社記事の地の文で、署名の単位としての「筆」が出てきた際は誤用としてきましたが、各社ではどのような運用をしているか、お尋ねします。なお、先月開かれた「共同通信の加盟社会議」で挙手してもらって聞いたところ、「筆」を使う社と使わない社は「半々ぐらい」でした。』

これに対して各社の委員からは、以下のような意見が出ました。

(共同通信)2014年に出た『三省堂国語辞典・第7版』には載っている。しかし「○人分」で良い。市民団体が「筆」とするのが目立っているので、記事でも出て来るようになった。

(朝日新聞)「筆」はダメ、とはしていない。データベースで検索したのだが、なかなかキーワードが難しくて、「~万筆」「~千筆」で検索したところ、2000年までは「2件」しかなかったのに、その後は「300件以上」出て来た。ほとんどは「地域版」(各県版)の記事だった。発表者(市民団体など)の言葉遣いを、そのまま使っているのでは?自然と広がっている。苦情や問い合わせは、ない。

(毎日新聞)それほど出て来ない。問題なく使われている。読者からのお問い合わせもない。「毎日新聞ハンドブック」の「助数詞」の欄に、「署名」は載っていない。今後加えようかなと思う。

(読売新聞)個人的には「署名」は「人」かなと思った。データベースで、「筆」は数件、出て来た。

(日経新聞)特に「筆」に関する決まりはない。データベースでは「2004年3月」が一番早い(古い)が、件数は少ない。「○人の署名」「○人分の署名」「○件の署名」が多い。

(東京新聞)「筆」は、結構出て来る。「発表モノ」では多い。写真説明(キャプション)で「○筆」になっている例も。ただ、全体としては「○人分」のほうが多い。

(産経新聞)10月21日の2面で「署名活動で100万筆を超え」と出て来たが、特に読者などからの反応はなし。助数詞の間違いに関しての苦情は結構多く、例えば「割り箸」で「○本」と使うと「なんで『○膳』を使わないんだ!」と苦情が来るが、「署名」で「筆」を使ったことでの苦情はない。

NHK)データベースで検索した。調べにくかった。「署名、筆」をキーワードとして検索したところ、この1年で「2件」だった。去年・おととしは「0件」。ほとんど使われていない。放送は「○人分」のほうが聞きやすい。

(ytv)「署名」の数え方で「筆」を載せている『三省堂国語辞典』の「第7版」は、2014年1月(実際は2013年12月)に出ているが、その前の「2008年」に出た「第6版」には載っていなかったので、「2008年~2013年」の間に広まったものではないか?『三省堂国語辞典』の編纂者・飯間浩明氏に「筆」を採用したきっかけについてメールで質問したが、まだ返事が来ていない。(その後、届いたので、ここに載せておきます。)

<例文は、袴田事件で再審開始を訴える署名が「500筆」集まったという文章を、そのまま拝借したものです。私は袴田事件の報道の中でこの文章に触れ、(要求・要請の)署名を「筆」で数えることに気づきました。そこで、他の署名に関する文章にも当たってみましたが、やはり「筆」を使う例が複数見られたので、辞書に意味区分を加えるべきだと判断しました。飯田朝子さんの辞典にも「署名」とありますが、これは著者サインなどの意味の「署名」ですね。『三国』の説明文もそう取れる余地があるので、修正すべきかと思います。:飯間浩明>

(熊本日日)私は「署名、筆、提出」をキーワードに検索してみた。署名を集める側が「筆」を使っており、その例が増えている。そろそろ「筆」を解禁してもいいかな、と思った。

というようなところです。

そして2017年9月8日の毎日新聞夕刊に、署名の「筆」が出て来ました。

ミャンマーのイスラム系少数民族「ロヒンギャ」迫害に無策な、

「アウンサースーチー国家顧問」

が、1991年に受賞した、

「ノーベル平和賞の取り消し」

を求める署名が、

「36万5000筆以上」

集まったという記事でした。去年11月の会議で毎日新聞さんは、

『それほど出て来ない。問題なく使われている。読者からのお問い合わせもない。「毎日新聞ハンドブック」の「助数詞」の欄に、「署名」は載っていない。今後加えようかなと思う。』

と答えてらっしゃったので、ハンドブックの助数詞の欄に、「筆」を加えられたのかもしれませんね。

(2017、9、11)

2017年9月12日 21:40 | コメント (0)