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『道浦TIME』

新・読書日記 2016_148

『月9(げつく)~101のラブストーリ』(中川右介、幻冬舎新書:2016、10、30)

「月9」は「げつく」あるいは「げっく」と読む。「月曜・夜9時から」のフジテレビのドラマを指す。始まった(1987年)当初は「トレンディードラマ」と呼ばれた時期もあった。バブルの頃だ。その当初から現在に至るまでの「一覧表」が巻末に載っているので、まず、そこを見る。な、なつかしい。時代を想起させるドラマのタイトル、脚本家、出演俳優・女優たちの名前がズラリ。

この本では1987年から1996年の「ロングバケーション」まで39作品について書かれている。まさに「フジテレビ興隆期のクロニクル」である。

しかし、実を言うとそのほとんどを、私は見たことが無い。見たことが無いのに知っているというぐらい、みんな見ていた、と。最高視聴率が30%を超える(あるいは、平均視聴率が20%を超える)ということは、そういうことである。

リアルタイムではないのだが、後からビデオを借りて全部見たのは、この本の最後に出て来る「ロンバケ」こと、「ロングバケーション」。キムタクこと木村拓哉と山口智子が主人公である。なぜ見たか?と言うと、今から9年ほど前に、仕事で山口智子さんのトークショーの司会をすることになったから。これは見ておかなきゃ、ということだったが、見出したらハマってしまいましたね。

また、ドラマは見ていなかったが「主題歌」は知っているという曲は、たくさんあった。

「ラブ・ストーリーは突然に」「SAY YES」「君がいるだけで」・・・まさに時代を象徴するような曲の数々だ。

ドラマについてのみならず、当時の政治の流れもちょいちょい顔を出す。また、ドラマの中の小道具としての「電話」にも触れている。私も「ロングバケーション」を見た時に「あ!ケータイが無い」と思ったのだが、これらのドラマは「携帯電話のない時代」の物語でもあるのだ。だから「留守電に入れた伝言」を聞いていなくて「すれ違い」とか、そういうシチュエーションがあったのである。若い人は知らんでしょうなあ。

あと、丙午(ひのえうま)の「1966年生まれ」の人の絶対数は少ないはずだが、この年の生まれの「月9女優」は、三田寛子、小泉今日子、斉藤由貴、鈴木保奈美、森尾由美、安田成美、伊藤かずえ、財前直見、江角マキコなど錚々(そうそう)たるもので、人数も多いと書かれている。たしかに・・・。

著者の中川さんが「この本で書きたかったこと」は、「時代のヒロイン=W浅野から鈴木保奈美、中山美穂へと移行する女優の世代交代」「木村拓哉が時代のヒーローになっていくサクセスストーリー」「作家主義からプロデューサーシステムへ、さらに脚本家の時代へ移り変わるテレビドラマ発展史」「フジテレビという企業の盛衰」の4つだという。

その途中に、中川さんのピリリとした、あるいはクスッと笑わせるような短いコメントが織り込まれていく。東京都知事に小池百合子が当選したことや、SMAP解散といった最新ニュースも、しっかり書き込まれている。1988年「君の瞳をタイホする!」に、当時20歳の蓮舫が、婦人警官役で出演している、なんていう情報も。これ、ビデオやDVDなどでしっかり確認しないとわからないことだろう。また、「のちのち、何かの役に立つだろう」と、1983年の創刊から20年間購入し、捨てずに取っておいたというテレビ番組雑誌『ザ・テレビジョン』が、今回大いに役に立ったという。

470ページにも及ぶ分厚さで、正直言って300ページぐらいまで読んだところで、

「どこまで読んでも、終わらない感じ」がしたが、「読んで」そうなら、「書いて」いた中川さんは、

「一体これは、いつ書き終えることができるのだろうか?」

と不安になったのではないかなあ・・・とも思った。

それにしても、こんなにも内容の濃い「月9」を見ずに、当時私は一体何をしていたのだろうか。あ、でも「東京ラブストーリー」も「同・級・生」も「age35」も見ていなかったが、これら柴門ふみの原作漫画は、当時リアルタイムで読んでいた。「ツイン・ピークス」や「羊たちの沈黙」などの洋画も見ていた。そっちだったか。

"テレビマン必読の書"である。

ただ、増刷がかかる前に、ぜひ誤植は直してほしい。

26・50・97・134・202・375ページに出て来る、「○○役をつとめる」という意味での「つとめる」は、全て、

×「勤める」→○「務める」

だと思う。それと79ページ、東京・六本木で照明の落下事故があったディスコの名前は、

×「トゥーリラ」→○「トゥーリア」

ですね。ああ、懐かしい。行ったこと、ないけど。

(追記・訂正)

上に「誤植」として、

×「勤める」→○「務める」

と書きましたが、著者の中川右介さんから連絡があり、

「歌舞伎の世界では『勤める』と表記するのです」

とご指摘がありました。そうだったのか!知りませんでした。

私もちょっと、あまりにも何回も(6回)出て来るので、「見逃し」とも思えず、ちょっと「おかしいな。わざとかな?」とは感じてはいたのですが。やはり「わざと。あえて」使っていたのですね。新聞や放送のニュースだと「役をつとめる」はぜんぶ「務める」に直すところですが、

「専門分野での独特な漢字の使い方」

というのがあるのですね。勉強になりました。ありがとうございます。

(2016、11、14)



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(2016、11、2読了)

2016年11月 8日 21:09 | コメント (0)