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『道浦TIME』

新・ことば事情

6116「『重用』はチョーヨーか?ジューヨ-か?」

皆さんは、

「重用」

という言葉はどう読みますか?

「チョーヨー」

でしょうか?それとも

「ジューヨー」

でしょうか?私は、

「チョーヨー」

と読みます。「ジューヨー」と読むと、

「重要」

と勘違いするかもしれませんしね。

ところが!辞書を引くと、

「ジューヨー」

のほうが「メイン」で載っているものが多いのです!!

「見出し」と「語義の説明」が載っているものを○、「見出し」が載っていないものは×、空見出しを△としました。

                  【ジューヨー】【チョーヨー】

『日本国語大辞典』(1989)          ○      ×

『広辞苑第4・5・6版』(199119982008 ○      △

『NHK日本語発音アクセント辞典』(1998)   ○      ×

『新潮現代国語辞典第2版』(2000      ○      ○

『集英社国語辞典第2版』(2000)       △     

『大辞林第3版』(2006)           △     

『岩波国語辞典第7版』(2009         ○

『明鏡国語辞典第2版』(2010)         ○      ○

『新選国語辞典第9版』(2011)        ○     

『新明解国語辞典第7版』(2012)         ○     

『三省堂国語辞典第7版』(2014)         ○     

『NHK日本語発音アクセント新辞典』(2016)   ○      △

<以下「電子辞書」>

『デジタル大辞泉』              ○      ○

『旺文社標準国語辞典』            ×     

『精選版日本国語大辞典』          ○      ○

こうやって見て来ると、昔は「ジューヨー」と読んでいたものが、最近は「チョーヨー」も認める様になってきているような感じもします。

今年入社して報道記者に配属された新入社員の女性に、

「『重用』は何と読む?ジューヨー?チョーヨー?」

と聞いてみると、

「『チョーヨー』としか読んだことがありません!」

と言っていました。

もしかしたら、「チョーヨー」と読むと、

「徴用」

と同音なので、間違われることを嫌って「ジューヨー」と読んだのかもしれません。「徴用」などあまり使わない言葉だと思う「戦争を知らない世代」は「チョーヨー」と読み、戦争の記憶の中の「徴用」が、生きた言葉として残っている世代は「ジューヨー」と読むのかもしれません。

これは、思いのほか「ジューユー」な問題なのではないでしょうか?

ちなみに、たまたま報道フロアで擦れ違ったアナウンサー4人に聞いてみたところ、

4人全員が、

「チョーヨー」

でした。「『ジューヨー』と読むと、間違ったみたい」(2年目・女性アナウンサー)という声もありました。

この問題、NHK放送文化研究所の塩田雄大さんにぶつけてみたら、

「NHKでは1999年2月の用語決定で、それまで『ジューヨー』のみを認めていた『重用』の読みを『(1)ジューヨー(2)チョーヨー』としています」

と資料を送ってくれました。その資料(『放送研究と調査』1999年4月号)によると、

・「チョー=漢音」

・「ジュー=日本の慣用音」

とした上で、『NHK日本語発音アクセント辞典』に載っている「二字漢語」の「重○」の「重」の読みを分類して、

*「ジュー」=重圧、重刑、重厚、重婚、重罪、重刷、重視、重々、重傷、重症、重唱、重心、重臣、重水、重税、重貴、重奏、重曹、重層、重体、重代、重大、重鎮、重点、

重電、重度、重任、重罰、重版、重犯、重病、重文、銃砲、重宝(お家の~)、重油、重要、重用、重量、重力(以上39語)

*「チョー」=重畳(山岳~)、重宝(~がる)、重陽(菊の節句)(以上3語)

*両用=重複(1語)

と記しています。そして、アンケート調査(重複じゃないの?)によると(「ことばのゆれ調査」(全国)1404人:1998年)、

「この会社は若手を重用している」

という文章の読み方は、

(1)「ジューヨー」=751人(54%)

(2)「チョーヨー」=574人(41%)

で、また、

「信長は秀吉を重用した」

については、首都圏在住の元NHK番組モニター調査(86人:1991年8月28日~9月10日)で、

(1)「ジューヨー」=15人(17%)

(2)「チョーヨー」=69人(80%)

さらに、国語辞典90冊を対象にした調査では、

*「ジューヨー」の読みを掲載しているもの=76冊

(初出=『日本大事典 言泉』大倉書店:1917年)

*「チョーヨー」の読みを掲載しているもの=55冊

(初出=『広辞苑 第1刷』岩波書店:1955年)

そして、1999年2月の放送委員会での意見をまとめてあります。

「『重要』も『ジューヨー』と読む。『重要な』『重用する』と品詞が異なるので混同することはないが、『ジューヨー』と耳にしたときに、とまどうことはあり得る。そういったことを避けるために『重用』を『チョーヨー』と読んだ方がよい状況もあるだろう」

とのことです。また、塩田さんは、

「道浦さんがお引きになった『NHK日本語発音アクセント辞典』(1998)は、おそらく、初刷り(あるいはかなり初刷りに近い時期のもの)ではないかと思います。1999年2月の放送用語委員会で、それまでの『ジューヨー』に加えて『チョーヨー」も認めました。それ以降の刷りのアクセント辞典では、そのように示されているものと思います。(中略)アクセント辞典では、放送用語委員会の決定で『発音』や『表記』に変更が生じたときには、修正をおこないます。『発音』を議論する場合、厳密にやろうとする際には、(1998)という初版の発行年次だけではなく、何刷りなのかを考慮する必要があります。』

さすが塩田さん、ご指摘どおり、今回の上に書いた「1998年版」の「NHKアクセント辞典」は、「紙」の「初刷(第1刷)」を使いましたが、実は、先日買ったばかりの「電子辞書」に採用されていた「1998年版の"新しい刷り"」に相当するものも見ていて、「1998年版」の途中で「チョーヨー」も採用されていることは、認識していました。

しかし、「1998年版」の最初(初刷り)と、2016年版の「NHKアクセント"新"辞典」との違いを際立てるために、「刷り」の情報は、あえて省かせていただきました。ご了解を。

でもこれで、

「そもそも『ジューヨー』があって、後から『チョーヨー』という読みが加わって来た」

という流れは明らかになりましたね。そして国語辞典の「初出」も、

「ジューヨー」が「1917年」

「チューヨー」は『広辞苑』初版の「1955年」

まで待たなければいけなかったと。

でも、もうその「チョーヨー」の初出から60年以上たっていいます。「チョーヨー」のほうが主流だと思われるのですが、その辺りはどうなんでしょうかね?

あ、そうだ、「ジュー」か「チョー」かという話で言うと、『広辞苑』の編纂者として知られる、

「新村 出(しんむら・いずる)」

先生ですが、お名前の「出」は、新村先生のご実父・関口隆吉氏が、前任地の「山形」から「山口」に転任されて間もなくの誕生だったことから、「山口」と「山形」の「山」が重なる因縁によるものなのだそうです。そして新村先生の雅号は、

「重山(ちょうざん)」

と「チョー」です。これは、「出」の文字が「山」を「縦に2つ重ねている」ところから付けたそうです。

また、「重」の読み方の関連で言うと、文化庁の『言葉に関する問答集・総集編』の369ページに、

「『重複』は『チョウフク』か『ジュウフク』か』

という項目が載っています。それによると、明治19年(1886年)刊行の『和英語林集成』から、明治31年(1898年)刊行の『ことばの泉』までは、

「チョウフク」

を採用しているが、その項目に「ジュウフク」(旧仮名遣いは「ぢゆうふく」)の語形は載せておらず、見出しもないそうです。『ことばの泉・補遺』になって「ジュウフク」を見出しに掲げ、

<「ちょうふく」の誤読。>

としているのだそうです。

そして明治44年(1911年)に改定した『辞林』では「ジュウフク」を参照見出しとして<「ちょうふく」に同じ。>としているとのです。以後は、ほとんどの辞書が「チョウフク」を本項目にして、「ジュウフク」も参照見出しで載せる形で、昭和2年(1927年)観光の『日用語大辞典』では、両形を本項目としているということです。

そして、

「『重』は、漢音がチョウで、慣用音がジュウである。『重』を含む漢字二字から成る熟語では、どちらかと言えばジュウと読むものが多いようである。そして、これには、現代でも日常語としてしばしば使われている語が多い。『重圧・重囲・重視・重傷・重症・重職・重心・重税・重体・重大・重鎮・重砲・重役・重量』や、『重婚・重層・重殺・重箱・重犯・重訳』などである。チョウと読むものには『重畳・重陽』や『慎重・丁重』などがあるが、右の語(注・ジュウと読む語)に比べて日常語からは少し離れているようである。ジュウともチョウとも読むものには『重出・重臣・重祚(ソ)・重任・重用・重来』などがあるが、これらは、現代語としては、ジュウの方が優勢である。そして、『ジュウ』と『チョウ』とで、意味の区別があるとは言えない。以上のようなことから、チョウフクは、伝統的な言い方、ジュウフクは、比較的新しい言い方と言うことができるであろう。NHKではチョウフクを使っている。なお、『重宝』とか『自重』とかのように、チョウと読むかジュウと読むかで、意味を異にする語もある。例えば『重宝な品物・重宝がられる』と、『伝家の重宝』、『自重してください』と、『自重一トン』などのようである。」

とありました。ここにも「重用」が、

「ジュウともチョウとも読むもの」

として出て来て、

「現代語としては、ジュウの方が優勢である。」

と記されていました。これは『言葉に関する問答集・第8集』に収められてものなので、

「昭和57年(1982年)3月」

に出たものです。

「重複」の場合は「チョーフク」が伝統的で、

「重用」の場合は「ジューヨー」が伝統的

ということのようですね。

なお、復刻版の大槻文彦『言海』(ちくま学芸文庫)には、

「じふやう」も「ちゃうやう」も

載っていませんでした。

この『言海』は、「明治22年(1889年)5月15日」に刊行された『言海』(628刷!!!:昭和6年=1931年3月15日刊)を底本としているそうです。

(2016、7、27)

2016年7月27日 23:00 | コメント (0)