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『道浦TIME』

新・読書日記 2016_033

『ショッピングモールから考える~ユートピア・バックヤード・未来都市』(東浩紀・大山顕、幻冬舎新書:2016、1、30)

 

 

哲学者・東浩紀と、"工場萌え"の写真家・大山顕の対談集。東は1971年生まれ、大山は1972生まれの同世代だ。私よりは一回り若い。

冒頭、今、日本全国に広がっている「ショッピングモ-ル」は、日本のみならず全世界に広がっているとして紹介されるのは、シンガポールのセントーサ島へ渡る入り口にあるショッピングモール「ヴィヴォシティ」(設計は、あの伊東豊雄さんだって!)と、UAE・ドバイにある「ドバイ・モール」、そしてアメリカ・ミネアポリスの「モール・オブ・アメリカ」の3つ。読んでいて驚いたのだが、なんとこのうち「ヴィヴォシティ」と「ドバイ・モール」には行ったことがあった!そういえば...と思い出す。「ドバイ・モール」は印象深く、「世界は今、こうなっているのか!」と驚いたし、同じくドバイの空港も、その規模と、24時間稼働の実態を見て本当に驚いた。それが、6年前(2010年)の夏のことだ。

この本は、「ショッピングモール社会学」とでも言うべき"新しい視点"を打ち出している。「ショッピングモール」は、「新しい公共」を打ち出す「場」として機能しているのだという。また、「モール」は「内と外が逆転した新たなユートピア」(第2章)であると。確かに建物の「外観」はあまり気にせず、「内装」が全て。しかもその「内部」は窓がなく閉じていて、直線的ではなく「曲線」で構成されている。つまり「見通しが利かない迷路性」を持っているのだが、その一方で、どの国のどのモールでも言葉が分からなくても「トイレ」のある場所などは、"直感的にわかる"ように配備されているという。そして閉ざされた「内部」は、一定の気温・湿度に保たれた「ユートピア」。特に砂漠地帯にある「ドバイ・モール」などでは、「ショッピングモール」は「オアシス」なので、その内部に「水」(水路や噴水)が組み込まれているという。日本の「モール」がそれほど「水」にこだわらないのは、砂漠ではなく水に恵まれた「温帯」だからではないか?などと言っている。しかし、そんなことはないよ!日本でも「地下街」には「噴水」や「川」があったよ!

そもそも、日本でまだ「モール」なんて言葉が一般的ではなかった1970年代前半からから、私は「モール」を身近に活用して来ました。大阪・枚方市にある「くずはモール」です。当時のモールは「開放的」で、決して閉じてなどいなかった。当時「閉じていた」のは、「地下街」です。特に日本一の面積を持つ「大阪の地下街」は、もちろん「閉じている」し、「窓はない(地下だから当然)」し、一定の温度、そして、さっきも言ったように、「虹の街」や「阪急三番街」には「川」や「噴水」があったので、今の「ショッピングモール」の原型は「地下街」にあるのではないか?と読んでいて思いました。これは著者たちより10年早く生まれている分、知っていることもあるということですね、肌感覚で。ということは、私より10歳年上の人たちは「違う違う、そうじゃないんだよ!」という私たちの知らないことを、知っているのかもしれませんね。

今の「ショッピングモール」は「空港」にも似ているし、「クルージング船」にも似ている。はたまた「宇宙船」にも!(同じ「船」だしね。)また「ディズニーランド」のようなテーマパークも、閉じられた世界に「一つの別世界」を作るという意味では「ショッピングモール」と似ていると、話は広がって行って、大変面白い。「イッツ・ア・スモール・ワールド」「カリブの海賊」などのアトラクションも、閉じられた空間に世界を封じ込めて、しかも「水路」で行くなんて、「モール的」ですね!知的興奮を覚える一冊です。

 

その後、以前読みかけた本を見ていて「あっ、そうか!その視点もあったか!」と思ったのは、酒井順子の『裏が、幸せ』。「裏」とは「日本海側」、いわゆる「裏日本」と差別的呼称で呼ばれていた地域のことである。「表日本」=「太平洋側」の「都市(都会)」で生まれ育った著者(酒井順子)にとって、「裏日本=日本海側」の豊かさは、ものすごく目新しく、「こちら側に本当の幸せがあるのではないか」と感じたことについてのエッセイ集。(まだ、読みかけですが。)

「裏日本」は、「表日本」へ向けての「供給基地=バックヤード」であった。「表日本」=「太平洋側」は「消費地」である。これって「ショッピングモール」の「内と外」に似てませんか?「バックヤードの見えないショッピングモール」と、「ひたすら消費し続ける表日本と、バックヤードとして供給を続ける裏日本」。「電力」の供給で、福島・福井が、関東・関西へ電気を供給しているのも、同じ構図では?

「都市」とは「人が合理的に集積(密集)して、効率的に消費する場所」。それはまさに「ショッピングモール」なのではないか?

次の本では、ぜひこのあたりまで議論を広げてほしいなあと思いました。(一部、「福島原発の遊園地化計画」という、ちょっと聞くと「何を考えてるんだあ!」と怒られそうな話が出てきて、その辺りとも、これはちょっと関連するかもしれません。)

 

 


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(2016、2、18読了)

2016年2月27日 12:13 | コメント (0)