Top

『道浦TIME』

新・ことば事情

3882「キム・ヨナのアクセント」

 

2月24日、バンクーバー冬季オリンピックの女子フィギュアスケート、ショートプログラム(SP)で、浅田真央選手は21位に立ったのは、ライバルの、韓国キム・ヨナ選手でした。

この「キム・ヨナ」のアクセントについて、「ミヤネ屋」のナレーターの中矢さんから質問を受けました。

『「キム・ヨナ(選手)」のアクセントは、

「キ/ムヨ\ナ」(中高アクセント)

でしょうか?それとも、

「キ/ムヨナ」(平板アクセント)

でしょうか?また「選手」を付ける場合には、

「キ/ムヨ\ナ・セ\ンシュ」

と「2語意識」で読むでしょうか?それとも一気に「1語意識」で、

「キ/ムヨ\ナ・セ\ンシュ」

でしょうか?』

うーん、ぼくはこれまで、

「キ/ムヨ\ナ」(中高アクセント)、「キ/ムヨナ・セ\ンシュ」

と読んできましたが、中矢さんは「平板アクセント」で、

「キ/ムヨナ」(平板アクセント)、「キ/ムヨナ・セ\ンシュ」

と読んだそうです。私は、

「どちらも間違いではないと思います」

と答えましたが、気になったので、各社のアナウンサーなどの知り合いにメールで聞いたところ、225日午後6時時現在で、以下のような返事がきました。(到着順)

○=「平板」傾向、●=中高傾向

****************************************

○(新潟総合テレビ)

意識もせずに「平板アクセント」の印象が強い。「選手」が付いても「キム/ヨナ選手」という読みの方が耳に残っている。

●(高知放送)

「キ/ムヨ\ナ」(中高アクセント)、「キ/ムヨ\ナ・セ\ンシュ」

●(NHK)

あくまで個人的な感覚だが、私は、[キ「ムヨ\ナ]しか使わない。相当慣れ親しんだ人であれば[キ[ムヨナ→]という平板型もあるのかもしれない。「キム・ジョンイル」はすでに1語化して[キ「ムジョ\ンイル]となっているるがが、当初はおそらく[キ\ム・ジョ\ンイル]であったように想像する。キム・ヨナの場合は、

【当初(2語段階)】      キ\ム・ヨ\ナ 

【そのあと(1語段階)】    キ「ムヨ\ナ

【さらにそのあと(平板化)】 キ「ムヨナ→ 

といったように説明されそう。

○(フリーアナウンサーH氏)

キムヨナは、単独でも「選手」が付いても「平板アクセント」でやっている。同業者数人に尋ねたが、同じ答えだった。

●(静岡放送)

「選手」がつく場合は「キ/ムヨ\ナ・セ\ンシュ」2語意識、つかない場合は「キ/ムヨ\ナ」と「中高」でやっている。

●(福岡放送)

個人的見解だが、「選手」なしは「キ/ムヨ\ナ」(中高アクセント)、「選手」を付ける場合には、「キ/ムヨ\ナ・セ\ンシュ」(2語意識)と一気に「1語意識」で「キ/ムヨナセ\ンシュ」の「両方あり」。

●○(テレビ金沢)

本来は「キ/ムヨ\ナ」であると思う。しかし「キ/ムヨナ」の「平板アクセント」の方が、流通していると感じる。もともと韓国・北朝鮮の人名では苗字と名前とに分けずコンパウンドするようだ。「イミョンバク」「ノムヒョン」「キムデジュン」「キムヨンサム」などはコンパウンド(1語意識)。だから類推ならば「キ/ムヨ\ナ」が正しい。ただし例示したものは、途中で撥音「ン」が入って拍子が取りやすく、まとめて発音しやすい。「キ・ム・ヨ・ナ」は別々に発音しても不自然ではないので、「平板アクセント」が一般化したのではないか。もし「キムヨンナ」だったら、きっとコンパウンドしていたに違いない。「選手」がついても、一語で読む意識はなくても良いと考える。

●(山形放送)

うちのアナウンサーは、「中高アクセント」で読んでいる。また「選手」がつけば、「キ/ムヨ\ナ・セ\ンシュ」と「2語意識」で読んでいる。

○(フリーアナウンサーM氏)

「キ/ムヨナ」と「平板アクセント」。「選手」を付けると「1語意識」で「キ/ムヨナセ\ンシュ」が多い。しかし「キ/ムヨ\ナ」と「中高」になったこともあった。フジテレビの『ジャーナる!』のナレーション録音では「平板」「1語意識」だった。

●(宮城テレビ)

「選手」を付けない場合は「キ/ムヨ\ナ」と「中高アクセント」、「選手」を付ける場合は「キ/ムヨ\ナ・セ\ンシュ」という「2語意識」の読みが多いと思う。

<※それぞれ「会社としての回答」ではなく、「知り合い個人としての回答」です>

○(福井放送)

「キ/ムヨナ」(平板アクセント)で読んでいる。「選手」を付ける場合は、やはり「キ/ムヨナセ\ンシュ」と思うが、正直あまり自信はない。特に外国選手の場合は悩むが、周りスタッフの意見なども参考にしながら読んでいる。

○(朝日放送)

私個人は「キ/ムヨナ」(平板アクセント)、「キ/ムヨナセ\ンシュ」。

●(北日本放送)

個人的には「キ/ムヨ\ナ」(中高アクセント)、「選手」を付ける場合も「キ/ムヨ\ナ・セ\ンシュ」。普段の会話では「平板」だが、ニュースでは「中高」。

○(中京テレビ)

(女子フィギュア日本代表選手が)3人とも愛知県ということで、こちらでも連日報道しているが、「キ/ムヨナ」(平板アクセント)、「キ/ムヨナセ\ンシュ」と、うちでは発音している。特に理論的に考えているわけではないが、この発音で統一されている。

     (四国放送)

弊社アナウンス部としては「選手」が付かない場合は「キ/ムヨ\ナ」(中高アクセント)。「選手」がついても「キ/ムヨ\ナ・セ\ンシュ」で読んでいる。

○(静岡第一テレビ)

「キム・ヨナ」のアクセントは、私たちは「キ/ムヨナ」(平板アクセント)、「キ/ムヨナセ\ンシュ」と言っている。「キムヨナ」を、ひとつのまとまりのように捉えているからだが、考えてみると、どちらの方がいいのか、分からないが・・・。

 

 

なお、きょう(24)のフジテレビの生放送で実況アナウンサーと解説者(八木沼さん?)は、

「平板アクセント」で「キ/ムヨナ」

1語意識で「キ/ムヨ\ナ・セ\ンシュ」

と言っていました。

また、2417時台の各局のニュースをウオッチしていたら、

○●(テレビ朝日)

男性ナレーター「キ/ムヨナ」(平板アクセント)

女性アナウンサー「キ/ムヨ\ナ・セ\ンシュ」(2語意識)

元五輪代表・佐野稔さん「キ/ムヨナさん」(平板アクセント)

○(日本テレビ)

『リアルタイム』スポーツコーナー女性アナウンサー「キ/ムヨナセ\ンシュ」(1語意識)

●○(読売テレビ)

・『ten!』ナレーターの藤田さん「キ/ムヨ\ナ・セ\ンシュ」(2語意識)=ただご本人に確認したら、

「『キ/ムヨナ』と『平板アクセントで言った』と、自分では思っていた」

ということでした。

●萩原アナウンサー「キ/ムヨ\ナ」、「キ/ムヨ\ナ・セ\ンシュ」

○坂・元アナウンサー「キ/ムヨナ」、「キ/ムヨナセ\ンシュ」

 

25日朝の日本テレビ『スッキリ!!』では、

○プロスケーターの村主(すぐり)千香さん=「キ/ムヨナセ\ンシュ」

     ○葉山エレーヌアナウンサー=1回目「キ/ムヨ\ナ・セ\ンシュ」、2回目「キ/ムヨナセ\ンシュ」。

     加藤浩次さん=「キ/ム・ヨ\ナセンシュ」

○荒川静香さん=「キ/ムヨナセ\ンシュ」

また、フジテレビ「とくダネ!」で、

○小倉智昭さん=「キ/ムヨナ」

 

と、まあかなり揺れていますが、特に誰も意識していなくて、文句も来ていないことから、「どっちもOK」

なのでしょうね。また、おそらく、

「キ\ム・ヨ\ナ」→「キ/ムヨ\ナ」→「キ/ムヨナ」

というアクセントの変化があったのだと思います。真ん中の「キ/ムヨ\ナ」は、

「日本語的なアクセント」

のように思いますし、最後の「キ/ムヨナ」という「平板アクセント」は、

「外来語っぽい感じ」

がします。

「プ/リシラ、カ/リメロ、ハ/バネロ、マ/ツキヨ」

といった4文字平板アクセント」語群に属するのではないでしょうか。え?最後のは、なんだかちょっと違う気がする?気にしない、気にしない。

「よく使う言葉のアクセントは平板化する」

明海大学の井上史雄先生がおっしゃっていますが、あれですね、きっと。「キムヨナ」さんの名前が、日本の皆さんの間でも根付いたことの、一つのあらわれではないでしょうか。昔は、

「ド\ラム、ギ\ター、バ\イク、ド\ラマ、ディ/レ\クター」

と言っていましたが、その時代でも、よくこの言葉を使う人たちの間では、

「ド/ラム、ギ/ター、バ/イク、ド/ラマ、ディ/レクター」

という「平板アクセント」である、という話と共通しているように思えますね。

 

(追記)

2月25日、お昼の日本テレビ「ニュースダッシュ」で、丸岡いずみキャスターは、

「キ/ムヨナ」(平板アクセント)

でした。翌26日の「ニュースダッシュ」でも「平板」で、一緒に出ている男性アナウンサーの枡太一君も、「平板」で、

「キ/ムヨナ」

でした。ただ、キム・ヨナ選手の地元、韓国・水原市の市民(若い女性)の韓国語での発音は、

「キ/ムヨ\ナ」

「中高」に聞こえました。

(2010、2、26)

(追記2)

226日の日本テレビ『スッキリ!』の男性ナレーター、女性ナレーターはともに、

「キ/ムヨ\ナ・セ\ンシュ」

田中アナウンサーは、

「キ/ムヨナ」、「キ/ムヨナセ\ンシュ」

女性ナレーターは、

「キ/ム・ヨ\ナセンシュ」8回、「キ/ムヨナセ\ンシュ」1回。

韓国人(日本語)リポーターの金亮香さん「平板」「キ/ムヨナセ\ンシュ」3回。

そして、同じく『スッキリ!』で流した、過去に荒川静香さんが『ニュースZERO』でやったインタビューで、浅田真央選手が、

「キ/ムヨ\ナ・セ\ンシュ」

と言っていました。なお、『スッキリ!』では「キム・ヨナ選手」が何度も出てくるので、後半の方は省略して、

「キ\ム選手」

になっていました。226日の「ミヤネ屋」で、宮根誠司さんは、

「キ/ムヨ\ナ」「キ/ムヨ\ナ・セ\ンシュ」「キ/ムヨナセ\ンシュ」

と、いろいろなアクセントで喋っていました。

それにしてもキム・ヨナ選手、すごかった・・・。真央ちゃん・・・頑張ったけど残念でした・・・。

 

 

 

 

 

(2010、2、26)

2010年2月25日 09:18 | コメント (0)