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『道浦TIME』

新・ことば事情

5981「初対面と初体験」

 

 

「初対面」

という言葉を、これまでは、

「ショタイメン」

と呼んできましたが、最近、

「ハツタイメン」

というのを、よく聞くようになりました。同じようなものには、

「初体験」

があります。「ショタイケン」と読んで、ちょっと「性的な意味」がある感じもしますが、それ以外は「ハツタイケン」なのかどうか?

ちなみに、国語辞典を引いてみると、新しい言葉を素早く取り入れることで知られる『三省堂国語辞典・第7版』では、「ハツタイケン」が見出しで「ショタイケン」は空見出し。「ショタイメン」は見出しにありますが「ハツタイメン」はありません。

『精選版日本国語大辞典』は「ショタイケン」「ハツタイケン」ともに見出しはなし。「ショタイメン」は見出しがあり、その中の意味で「ハツタイメン」は書かれているが、見出しはなし。

『明鏡国語辞典』も「ショタイケン」「ハツタイケン」は見出しなし。「ショタイメン」は見出しにあるが「ハツタイメン」はなし、でした。

そのあたりの事情を、2月5日に行われた用語懇談会放送分科会で、

『辞書的には「初対面」「初体験」の読み方は、「ショタイメン」「ショタイケン」だと思いますが、最近は、しばしば、「ハツタイメン」「ハツタイケン」という読み方も耳にします。この2つの読み方に、使い分けはあるのでしょうか?』

と、質問を出して、各社の意見を聞きました。

(WOWOW)きのう(2月4日)の「ゴチバトル」を見ていたら、神木隆之介と岡村隆史が「初対面」だという話で、出演していた3人が「ハツタイメン」と言っていた。

(NHK)相撲では「初顔合わせ」は「ハツ顔合わせ」。略して「初顔(ハツガオ)」。高校野球の甲子園は「初(ハツ)出場」「初(ハツ)体験」。

(テレビ朝日)「初めて」の意味では「ハツ」で良い。「初(ハツ)」は接頭語だ。「初舞台」「初公演」「初公演」など、後ろに「2文字」の言葉が来ると「ハツ」ではないか?「ショ」と読む「初期」「初動」「初見」「初回」などは、後ろに続く漢字が「1文字」。「初七日」は後ろに続く文字が「2文字」だが「ショ」。例外もある。

(共同通信)文化庁が出している「言葉に関する問答集」(1995年3月)の380ページに、正にこの「初対面・初体験の『初』は、『ショ』か『ハツ』か?」という問題について書かれている。それによると、「初体験」は各種辞書を100種余り当たったところ、見出し語にしているのは『学研国語大辞典』(1978年初版)のみで、その読み方は「はつたいけん」であり、「初めての体験。特に初めて異性と肉体関係を持つこと。」とあり「ショタイケン」という語形は掲げていないと。また「見出し語」としてはないが『新明解国語辞典・第3版』(1981年初版)では、「体験」の項目に「初(はつ)体験」とあり、「常用漢字・送り仮名用字用語辞典」(1982年初版)の「初(はつ)」の項目に「初体験」があるということで、「はつたいけん」が優勢のようだと。

また「初対面」は、ほとんどの辞書に掲載されていて、

・「ショタイメン」を見出しで採録=64種

・「ショタイメン」の意味の説明の中に「ハツタイメン」も=18種

・「ハツタイメン」を見出しで採録=4種

・「両方」見出しに採録していない=5種

ということで、現在(1995年)においては「ショタイメン」が、安定した形で一般に使われているが、「ハツ対面」も否定できないと結論付けている。また、

*「ショ」が接頭語で付く語

=「初発心」「初転法論」「初一念」「初感染」「初対面」「初年度」

*「ハツ」が接頭語で付く語

 =「初演奏」「初会合」「初冠雪」「初協定」「初喧嘩」「初公開」「初参加」「初出場」

「初節句」「初対局」「初挑戦」「初通話」「初天神」「初登場」「初入選」「初舞台」「初優勝」「初輸出」「初要請」

のように「ショ」が付くものは「限定」されているのに対して、「ハツ」が付く語は、これ以外にも多く、「ハツ体験」と「初」を訓読みするのも不自然ではなく、違和感もないと締めくくっている。

というさまざまな意見が出ましたが、そもそも「ハツ」と付くものが多くて、「ショ」と読むものは少なかったのですね。だから今は「ハツ」が優勢になって、元は「ショ」と読んでいたものも「ハツ」に押されている状況のようです。

その後たまたま見た、NHK木曜夜8時からの、近松門左衛門が主人公の新感覚時代劇「ちかえもん」の番組宣伝で、

「近松が、忠衛門とお初を対面させようとする」

と言っていました。これは「ショ対面」ではなく「ハツ対面」ですよね!相手が、

「お初」

だし。で、

「お初に目にかかります」

なんちゃって!!

 

(2016、2、11)

2016年2月13日 18:39 | コメント (0)