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『道浦TIME』

新・ことば事情

5891「女史」

 

『ニッポン語の散歩』(石黒修、角川新書)という、今から52年前に出た本を読んでいたら、男女の関連の言葉として、

「女史」

の扱いに関して、こんな記述がありました。

 

「昔シナで記録のことを扱い、日本でも文書を扱った女官を『女史』といったが、これを知名の女性に対する敬称として、さらに愛称、蔑称にも使うようになり、うっかり用いると、ごきげんを損ずることもできてきて、近ごろは『女史』は敬遠されがちになった。」(206ページ)

 

もう半世紀前から、「女史」という言葉の価値は低減していたんですね!もう「死語」だなあ。それと「シナ」という表記(言葉)は、半世紀前(戦後ですが)はOKだったんですね。

さらに続けて、

 

「このごろは未婚の女性にはミスにならって、『嬢』も用いられるが、『嬢』はもと良家の娘という意味である。」

 

そうでしたか。勉強になりました。

著者の「石黒修」さんという人は、明治32年(1899年)生まれで、法政大学や東京教育大学、東北大学などで講師をした言葉の専門家(言語学)だそうで、昭和55年(1980年)に亡くなっています。

こういう古い本を読むと、タイムマシンに乗って過去にさかのぼったような気がして、とても楽しかったです。

でも、50年前から、読み方やカタカナ語(外来語)の扱い、漢字の扱いに悩んでいる様子が分かって、

「なんだ、今も昔も、全然変わってないじゃないか」

と感じました。

 

ついでに、いつも読んでいる『ビッグコミックオリジナル』(小学館、2015年11月20日号)に連載されている『フイチン再見(ツァイチェン)~漫画の青い青い春~』(村上もとか)という漫画(第59話)で、主人公の漫画家・上田としこが、こんなセリフをしゃべっています。

「女流漫画家って言われるのも嫌い。だって男流なんて言葉はないでしょう。わたしは男でも女でもなく...ひとりのプロの漫画家として、日本中に漫画の素晴らしさを伝えたいの。」

場面は、昭和31年(1956年)の東京です。「上田トシコ」さんは、実在の漫画家(1917年~2008年)です。この漫画も、かなり史実に基づいて書かれていると思いますので、昭和31年ごろに上田さんは「女流」という言葉に対して、こういう気持ちを持っていたのではないでしょうか。

 

(2015、11、10)

2015年11月11日 11:44 | コメント (0)