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『道浦TIME』

新・ことば事情

5608「『日本鹿』のアクセント」

 

元青森放送のアナウンサーで、現在アナウンス学校の先生をされている大先輩からメールが届きました。

「先日、若手アナの間で『日本鹿』のアクセントをどこに置くかで議論をしていたのを耳にしました。対立していたのは、『日本鹿(ニホン+ジカ)』を、

『日本海』『日本一』『見本市』

などのように『ホ』にアクセント核を置くべきだと意見、『中2高』です。それに対して、

『日本人』『日本猿』『手長猿』

などは、『~ジ』『~ザ』『~ザ』といずれも『中4高』にアクセントがあるのではないか?といった声でした。小生も、

『複合名詞の前部が漢字2字以上、後部が漢字1字、2拍名詞のものは、原則として

前部の最後の拍まで高い』

という規則から、『日本鹿』は

『ニ/ホンジ\カ』

のように『中4高』で下降するのが適切と考えますが、如何でしょうか?

『後部要素は1拍、2拍の場合は"平板型"』

という規則もあるようですが...。(例)日本犬、日本髪、日本間、日本画 日本晴れなど」

 

うーん、難しい問題を・・・。

一応いろいろ考えて、こんな返事を出しました。

「さて、お尋ねの件ですが、私の結論から言うと。

『ニ/ホ\ンジカ』あるいは『ニ/ホン\ジカ』

です。

『ニ/ホンジ\カ』

は難しいのではないかと。

理由は、『日本+鹿』という複合語の主体は『鹿』である。『鹿』のアクセントは『シ/カ』と『平板アクセント』であり、複合語になってもその形が出来るだけ残されるほうが望ましい。まだ『日本鹿』という複合語は、『1語』となってしまうほど認識されていないと考えられ、それ故にコンパウンドはしない。コンパウンドして『ニ/ホンジ\カ』となってしまうと『シ/カ』(平板アクセント)は維持されず、『頭高アクセント』になってしまうので好ましくない。

『鹿』の種類で、

『○○ジカ』

という複合語を『広辞苑』から挙げてみると、

 

「オオジカ」「オオツノジカ」「オジカ」「ケラマジカ」「ジャコウジカ」※「ニホンジカ」「ヘラジカ」「ホエジカ」

「マメジカ」「メジカ」「ヤベオオツノジカ」「ヨツメジカ」

 

でした。これをアクセント別に分類すると(「ニホンジカ」を除く)、

 

【平板】「オ/ージカ」「オ/ジカ」「ヘ/ラジカ」「ホ/エジカ」「マ/メジカ」「メ/ジカ」

【中高】「ヤ/ベオオツノ\ジカ」「ヨ/ツメ\ジカ」「オ/オツノ\ジカ」「ケ/ラマ\ジカ」「ジャ/コ\―ジカ」

になると思います。(私の区分では)

一つも『○/○○ジ\カ』となるものはありません。

 

『NHK日本語発音アクセント辞典』を引いて、載っている単語のみ確認すると、

【平板】「オオジカ」は無くて、濁らずに「オ/ーシカ」。

【平板&頭高】「オ/ジカ」・「オ\ジカ」、「メ\ジカ」・「メ/ジカ」

【中高】「ジャ/コ\―ジカ」

 

ついでに、

『○○シカ』

と『シカ』が濁らないものは、

「アカシカ」「ウシカモシカ」「エゾシカ」「カモシカ」「サオシカ」「ヌマシカ」「マオシカ」「ヤクシカ」

でした。これをアクセント別に分類すると、「ウ/シカモ\シカ」(中高)以外は、

「ア/カシカ」「エ/ゾシカ」「カ/モシカ」「サ/オシカ」「ヌ/マシカ」「マ/オシカ」

「ヤ/クシカ」

と全て『平板アクセント』だと思いました。

『NHK日本語発音アクセント辞典』を引くと、載っていたのは、

【平板】「カ/モシカ」

だけでした。

つまり『○○○シカ』のアクセントは、『○/○○シカ』(平板)、もしくは『シカ』の『シ』の前でアクセントが降りる、

『○/○○\シカ』(中高アクセント)ではないでしょうか?

 

次に『動物の名前』の前に『日本』が付く形の『2音』の動物の名前を考えてみましょう。一番分かりやすいのは『桃太郎』のお供の動物、つまり、

『サ\ル』(頭高)・『キ/ジ』(平板)・『イ/ヌ』(尾高)

です。いずれも『2音』です。この前に『日本』を付けると、

「ニ/ホンザ\ル」・「ニ/ホ\ンキジ」(or「ニ/ホン\キジ」)・「ニ/ホ\ンイヌ」(or「ニ/ホン\イヌ」)

となります。(「犬」は「ケン」と音読みせずに元の意味を残した「イヌ」にしました。音読みと訓読みでも、アクセントが変わることもあると思います。)

 

確かに『ニ/ホンザ\ル』は『ザ\ル』となりますが、これは最初から『サ\ル』という『頭高アクセント』であり、それを保存しているのでしょう。

これに対して、『キジ』(平板)、『イヌ』(尾高)は、複合語になるので、そのまま『平板』『尾高』ではないですが、少なくとも『(ニ/ホン)キ\ジ』『(ニ/ホン)イ\ヌ』とはならないでしょう。よっぽど人口に膾炙すれば、なるかもしれませんが。

 

昔は、

『赤とんぼ』

のアクセントが、

「ア\カ」+「トンボ」→「ア\カトンボ」(頭高)

で、『赤』のアクセントを残していましたが、複合語として定着することでコンパウンドして、

「ア/カト\ンボ」

になったように、『日本鹿』もなるかもしれませんが、現時点ではまだそこまでは定着していないように思います。

(青森では、大阪よりは定着しているかもしれませんが、それでもまだそれほど定着していないからこそ、こういった議論になるのでしょう)

 

『NHK日本語発音アクセント辞典』で、

「日本○○」

の読み方で分類してみると、

(1)「ニホン」とだけ読むもの

=日本画、日本海、日本海溝、日本髪、日本酒、日本茶、日本脳炎、日本風、日本間、日本物、日本料理 

(2)「ニッポン」とだけ読むもの=なし 

(3)「両方」載せているもの

=日本銀行、日本語、日本犬、日本三景、日本史、日本紙、日本式、日本人、日本製、日本男児、日本刀、日本晴れ、日本文学、日本歴史、日本列島

となっていました。

 

これらのアクセントを分類すると、

【平板】日本画、日本画家、日本髪、日本犬、日本語、日本式、日本酒、日本製、日本茶、日本刀、日本晴れ、日本風、日本間、日本物

【中高】日本海、日本海溝、日本海流、日本記録、日本銀行、日本三景、日本人、日本男児、日本脳炎、日本文学、日本料理、日本歴史、日本列島

【平板・中高両方あるもの】日本史、日本紙、

でした。

このうち『中高アクセント』で、『ニ/ホン○\○』の形を取っているものは、『「日本海」以外の全ての単語』でした。

逆に『ニ/ホ\ン○○』の形を取っているのは、『日本海』だけでした。

 

<結論>

『日本+○○』という複合語を考えた場合に、NHKアクセント辞典では圧倒的に『ニ/ホン○\○』が多いのですが、

『○○+鹿』という複合語に注目した場合には、『○/○○ジカ』『○/○○\ジカ』が多い。

それがぶつかった場合に、どちらが優先されるのか?ということではないでしょうか。

 

今回はこんなところでいかがでしょうか。ではまた。。。」

 

これ、まだまだ議論は続きそうですねえ・・・。

(2014、12、4)

2014年12月 6日 12:54 | コメント (0)