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『道浦TIME』

新・読書日記 2014_017

『言葉と歩く日記』(多和田葉子、岩波新書:2013、12、20)

 

芥川賞作家の多和田葉子さんは1982年早稲田大学卒ということで2年先輩。1980年代初期の2年間ほどは、同時期にキャンパスの空気を吸っていたのだ、面識はなかったが。その後、多和田さんは渡独して31年。日本語とドイツ語で作品を物している大作家である。改めて奥付を見たら、芥川賞の後も、泉鏡花文学賞、ドゥマゴ文学賞、谷崎潤一郎賞、伊東整文学賞、紫式部文学賞、読売文学賞、文部科学大臣賞、野間文芸賞と、まあ、賞という賞を"総なめ状態"ではありませんか!スンゴイ!その多和田さん創作の秘密を垣間見ることが出来るかも・・・というこの「日記」、言葉についてのことが、たくさん記されているが、「1年間の物」ではなくて、

「1月1日から4月14日まで」

のもの。ということは、この後、続編が「4月15日から8月末まで」「9月~12月まで」が出るのではないか?と期待してしまう。季節と文章は、やはり関係あるでしょう?

多和田さんは、とにかくいろんな本を読んでるのだなということも感じられた。その中の何冊かは、私も読んだことがある本で、「やはり言葉に興味のある人は、読んでいるのだなあ」と共感。また、講演などで世界中を飛び回っているというのも驚きだった。「作家」というと、あまり外に出ないイメージが、どうしてもあったので。「そんなに忙しいのに、よく創作が出来るなあ」というのも驚きである。

「2月11日」(91ページから92ページ)に書かれていた出来事、ある大学の雑誌から頼まれて書いた文章の、

「普通高校で教える視覚障碍のある高校教師が遭遇する様々な『事件』は、大変痛い思いをながら読んだ」

という一文に対して、その雑誌の編集者が、

「『大変痛い思いをしながら読んだ』ではわかりにくいので『心が痛んだ』という表現にしてはどうか、と言ってきた」

という出来事が記されている。多和田さんは苦笑しながら「心が痛い」では通俗的過ぎて伝わらないと。そしてこの「視覚障碍のある高校教師」は、多和田さんの学生時代の友人なので、「読んでいて本当に痛かったのである」

と記している。この雑誌の編集者、勇気があるのか、身の程知らずというか、よく多和田さんに対してそんな提案をしましたねえ・・・。そしてこの「視覚障碍のある高校教師」とは、私の大学時代グリークラブの先輩である。その「雑誌」での多和田さんの書評も、去年、私は読んでいました。裏でそんなことがあったとはねえ・・・などと思いながら、読み進めました。多和田さんが、

「ある表現が頻繁に使われると、その表現は身体から離れていく。そんな時は、ずらすしかない」

と書いているのは、つまり「常套句」の扱い方ですね。「文学者」「クリエイター」としては当然だと思います。そういう意味では「編集者」は「クリエイター」ではなく「エディター」だから、「枠の中に収めよう」とするのが「プロ」なのかもしれないな。でも。本当のプロのエディターであれば、「クリエイター」の想像力をきっちりと認めて収める度量が必要なのではないかと思いますけど。

228ページの記述も面白かった。

「トルチェロ(イタリア・ベネチア)のビザンチン教会を見てびっくりした。これは(中略)イスタンブールの聖ソフィア教会そっくりではないか。ちょっと目眩がした。つながっている。イスタンブールとベネチアがつながっている。鏡のこちら側と向こう側。東ローマ帝国と西ローマ帝国。東側諸国と西側諸国。東日本と西日本。東洋と西洋。世界をそのようにとらえてしまうところをみると、ひょっとしたら脳には右脳と左脳がある訳ではなく、東脳と西脳があるのかもしれない。」

この飛躍はさすが作家!と思いましたが、目眩はしたんでしょうね。

あ、私は、知り合いに「宇野君」と「佐野さん」がいます。右脳と左脳。


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(2014、2、1読了)

2014年2月18日 23:13 | コメント (0)