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『道浦TIME』

新・読書日記 2013_150

『終わりと始まり』(池澤夏樹、朝日新聞出版:2013、7、30)

 

著者は、現代日本を代表する「知の巨人」の一人ではないかと私は思っている。特に東日本大震災以降、精力的に執筆活動を続けているように感じる。このコラムは、朝日新聞に2009年4月から2013年4月まで、朝日新聞で月1回連載されたものをまとめたもの。つまり「3、11」をはさんだ「前後」の連載であるだけに、書き手の信情の変化なども見て取れる。「月1」という「定点観測」だとも言える。

タイトルは、よく見ないと間違いがちだが、「終わり"の"始まり」ではなく、「終わり"と"始まり」。ポーランドの女性詩人・シンボルスカの詩「終わりと始まり」から取ったそうだ。何の「終わりと始まり」かと言うと、「戦争」なのだそうだ。

「戦争が終わるたびに、

誰かが後片付けをしなければならない

物事がひとりでに 

片づいてくれるわけではないのだから」(沼野光義 訳)

おお、これを読んで今、思い出すのはまさに「シリア」ではないか?

イラク戦争(2003年3月)からちょうど10年、「大量破壊兵器などない」ことは、いくらあのブッシュJrでもわかっていたはずなのに、戦争に突入した背後には「軍需産業の介在」が指摘されることがある。ブッシュJrよりは「聡明」とされるオバマが、国内世論の60%という反対を押し切ってまでシリアへの「軍事介入」に踏み切るとしたら、その背景には何があるのか?

「"平和"とは"戦争と戦争の間の短い期間"」

という警句を聞いたことがあるのを思い出して、暗い気持ちになる。7年後に開催が決定した"平和の祭典・東京五輪"に沸くIOC総会の背後に蠢くものは・・・。

ここまで書いて数日、アメリカ・オバマ大統領は、外交的手段での解決を目指す方針を明らかにしました。

(☆4つ)


star4

(2013、8、25読了)

2013年9月12日 17:38 | コメント (0)