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『道浦TIME』

新・読書日記 2013_141

『開高健名言事典 漂えど沈まず~巨匠が愛した名句・警句・冗句200選』(滝田誠一郎、小学館:2013、6、3第1刷・2013、7、1第2刷)

夏休みにベトナムへ行った。ホーチミン。その際に泊まったホテルの「103号室」のドアの横に金属の銘板が貼られていて、そこには「この部屋には開高健が宿泊した」と書かれていた。「おお、そうだったのか!」と、日本へ帰って来てから、家の本棚に眠っていた開高健の本を読み出した。そして、たまたま寄った本屋さんの隅っこで目に留まったのが、6月に出たばかりで7月に増刷されているこの本。決して目立つところに置いてあったわけではないのに、売れているんだ。

これはたしかに「名言集」というか、開高健という「ひと」がわかる珠玉の言葉の数々が、収められている。

「教えるものが 教えられるのが 教育の理想である」

「男は具体に執して 抽象をめざそうとしているが 

女は抽象に執しながら 具体に惑溺していこうとする」

「大人と子供のちがいは 持っている玩具の値段のちがいだけである」

「何事であれ 取材費を惜しむと 仕事が痩せる」

「飲むのはつめたく 寝るのは軟らかく 垂れるのはあたたかく 立つのはかたく」

howはわかるけど whyはわからない」

「春の肉体に 秋の知慧の宿る 理屈があるまい」

「人の一生の本質は 二十五歳までの経験と 思考が決定する」

「右の眼は 冷たくなければならず、左の眼は 熱くなければならないのである。

 いつも心に 氷の焔をつけておくことである。」

「神」にまつわる名言も。

「神がサイコロを振ることはない」(アインシュタインの言葉)

「神とともに行け VAYA CON DIOS」(スペイン語の別れの言葉)

「神は細部に宿り給う」

などなど。中でも「開高健の言葉だったのか!」と思ったのは、

「明日世界が終わるとしても 今日私は(あなたは)リンゴの木を植える」

という言葉。もっとも、その後に読んでいる川本三郎の『そして、人生はつづく』(平凡社)(118ページ)によると、この言葉は、

「開高健が引用したことで有名になったルーマニアの作家ゲオルギューの言葉」だそうですが、日本でこの言葉を広めたのは開高健、というのは間違いないようです。ほかにも、

「月並みこそは黄金」(ル-マニアの諺)

というのもあって、開高健はたぶん、ルーマニアの作家たちと、何らかの交流があったのかもしれない。

この調子で行くと、全部抜き書きしてしまいそうだが、全部で200の言葉が収められている。これらはすべて、著者が開高の著作を読んで抜き出した、まことにアナログな作業から生まれた労作。最後の方に「開高が愛した言葉」も、付録のようについている。その2番目に出て来た言葉は「雲古」。昔、フランス文学者の渡辺一夫はペンネームを「雲谷斎(ウンコクサイ)」と名乗ったそうだ。「ウンコクサイ」と言えば、立川談志の戒名も「立川雲黒斎家元勝手居士(たてかわうんこくさいいえもとかってこじ)」だったなあ。漢字がちょっと違うが。


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(2013、8、29読了)

2013年9月 5日 21:35 | コメント (0)