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『道浦TIME』

新・読書日記 2013_100

『理想だらけの戦時下日本』(井上寿一、ちくま新書:2013、3、10)

私が、大学で政治学科に入ったのも、マスコミを仕事に選んだのも、大きな目的としては

「日本を二度と戦争に導かない、巻き込まない」

という使命感があったからです。私が大学に入った1980年代の前半は、中曽根さんが首相になって「不沈空母」発言など、ちょっときな臭い感じでしたが、その後あまりそういう動きはなくて、1990年から少しあとに湾岸戦争、PKOがあって、そういうきな臭さがまた出て来て、2001年の「9.11」を機に一気に世界がきな臭くなり、そして2013年を迎えている現在。その時が「戦前」かどうかは、戦争が起こってから分かるので、今が「戦前」に近いかどうかは、「前の戦前」を検証することで分かるのではないか。今を「戦前」にしないためにも、この本を読むべきでしょう。帯には、

「右傾化・格差・政治不信・ポピュリズム・・・日本人は同じ過ちを繰り返す」

とあります。日本人は、すぐに同じ過ちを繰り返すことはないが、世代が変わると過去の記憶を忘れてしまう。あるいは、過去の記憶は「古い」と言って振り返らない傾向はあるようです。でも、「歴史」は繰り返します。まったく同じではないが、きわめてよく似た形でスパイラルに歴史は繰り返すと私は思っています。それを破滅の道に向かわせない叡智が必要だと思います。著者は「おわりに」で、

「今の日本は経済悲観論が強く、右肩下がりの経済を前提に共同体を作るべきではないかという議論が起きているが、その社会の将来は暗く、暗い情念と閉塞感をもたらす。日本は、富の平等な再配分に基づく福祉社会を持つ成熟した先進民主主義国を目指すべきである」

と述べている。そのためには、「少しずつでも右肩上がりの経済成長をめざしながら、他方では上方平準化によって社会の中堅層を拡大することが必要だ」と。

よく、考えていきたい。


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(2013、5、27読了)

2013年6月 3日 11:20 | コメント (0)