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『道浦TIME』

新・ことば事情

4578「暗雲が・・・」

 

2011年10月9日の深夜(10日の午前0時過ぎ)のフジテレビのスポーツニュ-スで、男子体操世界選手権の団体予選のニュースをやっていました。エース・内村航平選手がケガか?というシーンで、

 

「暗雲が立ち込めます」

 

とアナウンサー(ナレーター)は読んでいました。これを聞いて、先日、アナウンス部で後輩アナウンサーを交わした話を思い出しました。「暗雲」は、

「立ち込める」か?「垂れ込める」か?

です。本来は「垂れ込める」のはずです。なぜならば、「雲」の動きは「上から下」であり、「立ち込める」ものは「霧」などのように「下から上へ」のはずだからです。

この話を聞いていた後輩の山本隆弥アナウンサーは、

「先日、朝日放送の浦川アナウンサーがちゃんと『暗雲が垂れ込める』と言っていて、さすがだなあと思いました」

と言っていました。(だってさ!浦ちゃん、やるねー!)

しかし実は、辞書でも、「暗雲(黒くも)が立ち込める」を認めているものもあるようです。また、先日読んでいた池井戸潤の小説、

『かばん屋の相続』(文春文庫:2011、4、10第1刷・2011、10、5第6刷)の中でも、

「神室電機の決済日まであと三週間。だが、それを見た永島の胸には、払いきれないほどの黒雲が立ちこめた。」(20ページ)

「黒雲」が「立ち込め」ていました。プロの作家も使うんですね・・・。

2011年12月に東京で開かれた新聞用語懇談会放送分科会での席で、

『「暗雲が垂れ込める」が本来の形だが、最近「暗雲が立ち込める」という言い方も耳に(目に)する。各社の対応は?』

と質問しました。各社の答えは以下のとおりでした。

(NHK)「暗雲」は「垂れ込める」のみ。

(TBS)「暗雲」は、下からではなく上からなので、「垂れ込める」。

(フジテレビ)「立ち込める」は×。

(テレビ朝日)「立ち込める」は「霧」との混同か?

(テレビ東京)弊社ではアナウンサー試験にも出題、アナウンス教本にも記してあるぐらい。「暗雲が立ち込める」は×。

(ABC)OAではあまり使われていない。

(MBS)「暗雲が立ち込める」は使ってしまっているかも・・・

(関西テレビ)「暗雲が垂れ込める」という言葉を知らないかも・・・。

(テレビ大阪)「立ち込める」は×だが、原稿の書き手が間違うことも。アナウンサーやナレーター(読み手)がチェックしないといけない。

(読売新聞=オブザーバー)実は『大辞林』では2番目の意味として、比ゆ的には「暗雲が立ち込める」を載せている。使われ方が変ってきているのが現状。

 

(2012、1、15)

2012年1月23日 16:46 | コメント (0)