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『道浦TIME』

新・ことば事情

4486「前のめり」

 

今年(2011年)のF1鈴鹿サーキット、予選7位だった小林可夢偉選手決勝ではちょっと失敗、13位という残念な(不本意な)結果になってしまいました。

しかし去年の、2010年の「F1鈴鹿サーキット」では、たしかにすごかった。その際のフジテレビの実況アナウンサー小林可夢偉選手の「走り」について、こうコメントしました。

「日本中が前のめり!」

そうかあ?

たしかにすごい「走り」でしたが。「日本中」はオーバーだな。そちらに注目が行ってしまいましたが、実はここで使われている、

「前のめり」

という表現について、2011629日にNHKの原田邦博さんからメールが届きました。

『けさの朝日新聞での、NHKのディレクターの発言で、

「前のめり」

という言い方が使われています。これは「積極的」など、プラスのイメージでの使用だと思われますが、本来の「前のめり」は、マイナスのニュアンスが強いような気がします。「前向き」「前傾姿勢」のほうがいいように感じました。』

 

それまで私は、それほど気にしていなかった「前のめり」ですが、その後ちょっと注意してみると、

『週刊文春』(2011年9月29日号)「勝次官の肝いり主計を結集した『消費税シフト』」という記事の中に、

『「中核の主計局から直接送り込む人事に『前のめり』な姿勢が如実に現れている」と民主党関係者は指摘する』

という文脈で「前のめり」が使われていました。これは「積極的」「精力的」などの意味合いですね。ただそこに「プラス・イメージ」だけでなく「やや批判的な目線」も感じられる気がします。

新しい言葉をいち早く取り入れることで知られる『三省堂国語辞典』を引いてみたら、載っていました!

「前のめり」=(1)たおれそうにからだが前へかたむくこと。(2)先走ること。(例)「前のめりの議論は避けたい」

あれ?この2番目の意味かと思ったら、「週刊文春」の使われ方は、この(2)の意味かもしれないけど、F1の「日本中が前のめり」はどちらかというと(1)の方。体が自然と前のほうにいく、集中して引き込まれる、という感じでしょうか。そうすると、(1)でも(2)でもない微妙な使われ方ですね。この辺、今後も注目していきます。

 

(2011、10、10)

2011年10月17日 12:09 | コメント (0)