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『道浦TIME』

新・ことば事情 3779

「目元が涼しい」

 

「涼しい目元って、どんな目?」

アメリカ在住のI先輩から久々のメール。そこにはこう記されていました。

『落語を聴いてたら、美人を表現するのに、「鼻筋の通った、目元の涼しい」とありましたが、「ほんまはどんな顔なんやろ。実例の写真かなんか、ないんかな?絵でもええけど」とか、ふと思いまして。どういう意味なんですかね?

まあ、「鼻筋の通った」というのは、前から見ると、鼻の巾が細いということかなと、そして「目元の涼しい」というのは、まぶたに脂肪が少なく、目尻が切れ長の目かな、とか勝手に想像するのですが、じっさい、どんな目鼻のことなんでしょう?また、機会があれば、とりあげていただきたく思います。』

 

うーん、特に気にしたことなかったな。考えてみよう。

辞書を引きながら、メールの返事を書きました。

 

『本当にご無沙汰しています。お元気ですね?(と、決め付けてみる)

さて、お尋ねの「目元が涼しい」、気が付かなかったなあ。

『精選版日本国語大辞典』で「目元」を引くと、

「めもとの潮」

という言葉がありました。「潮」は「愛嬌」の意味だそうです。

それ以上は出てきそうにないので、「涼しい」を引いてみました。すると、

「(3)物のさまがすっきりしてとしていて、さわやかである。いかにもすがすがしく感じられる。」

と載っていて、用例は泉鏡花の『義血侠血』(1894)という作品から、

「色白く、鼻筋通り(略)見るだに涼(スズシ)き美人なり」

というふうに使われています。そのほかにも「涼しい」の意味として、

「(4)ことばや動作がはっきりしていてすがすがしい」

「(5)心がさわやかである。心中にわだかまるところがなく快い。わずらいがない」

があるほど、そのものズバリの

「(6)目もとがはっきりしている。目にけがれがない。」

というのがあって、用例はなんと「1535年頃」の『京大二十冊本毛詩抄・四』(読み方は知りません)から、

「清は目のすすしい本揚げはまゆのあがった体ぞ」

とありました。「本揚げ」って「花魁」とかそういうものですよね?ちがいましたっけ?

「涼しい」は「暑さが去った後のプラス感覚」を表すようですね。「顔つき」でも、

「暑苦しい」

というのはマイナス表現ですが、その逆が「涼しい」なのではないでしょうか。「暑苦しい顔」は目と目の間が狭く寄っていて、ぎゅっと凝縮されたような顔なんじゃないのかな。目と目の間にうまく鼻筋が通ってバランスがいい顔を「目元が涼しい」というのではないでしょうか。

 

>まあ、「鼻筋の通った」というのは、前から見ると、鼻の巾が細いということかなと、そ>して「目元の涼しい」というのは、まぶたに脂肪が少なく、目尻が切れ長の目かな、と>か勝手に想像するのですが、実際、どんな目鼻のことなんでしょう?

 

そうですね「目もとがはっきりしている」ということは、まぶたが重たくぶら下がっていたりしてなくて「まなこ」が、くっきり・はっきり見えるような顔でしょうね。

細い目なのか、大きなクリッした目なのかは、美醜感覚が時代によって変わっているでしょうから、同じ「目元が涼しい」という言葉を使っていても、時代によってその対象は変わっているのではないでしょうか?「美人」が時代によって変わるように。

「明眸皓歯(めいぼう・こうし)」の「明眸」が、「涼しい目(元)」なのでは?

あ、「仮面の忍者・赤影」のテーマソングで「赤影」のことを歌った歌詞に、

「きらりと光る 涼しい眼」

というのがありましたよね!あれが「明眸」では?

実は、随分前に買っておいて、まだ読んでいないのですが、井上章一さんの『美人論』あたりに、答えが載っていそうな気がします。家に帰ったら読んでみます。

「鼻筋が通った」というのも「右目」と「左目」をきっちりと分けるところにプラスの意味があるのではないでしょうか?(では目が離れている方が「美人・美男」なのか?・・・それは分かりませんが、何事も程度問題でしょう。)

 

ということで、いかがでしょうか?とメールしたところ、早速返事が。

「いろいろ用例がありますねえ。 井上章一さんの『美人論』とは、するどい指摘ですね。私も持ってまして、今朝出掛けに、パラパラと見てますと、なかほどに『美人とブスの対照表』みたいなイラストが載っていて、そこの左列一番下の女性が、ぼくのイメージするところの『鼻筋が通って、目元が涼しい』でした。ぼくにとっては、鼻筋が通って、目元の涼しいというのは、女優でいうと、山本富士子とか池内淳子とか(古っ!)。あんまり目玉がくりっとしているのは、美醜を別として、あんまり涼しく感じません。そうそう、さいきんで言えば、田中裕子とか。(←ぜんぜん最近とちゃうやんけ)

でも、『暑苦しい顔』で、しかも美人ってのもあるでしょうね。ソース顔というか。ゴージャス系美人というか。例えばソフィア・ローレン(古っ!)なんか、美人なんでしょうが、じつに暑苦しい顔してますな。鼻筋といわず目元といわず顔全体から熱が発しているような暑苦しさ。。。」

というお返事。

そうですね、やはり「浮世絵に出てくる美人画」みたいな顔つきが「目元が涼しい」んでしょうね。あんまりクリクリッと大きな瞳だと、「涼やかさ」には欠ける気もしますしね。

なかなか勉強になりました。I先輩ありがとうございました!

 

(2009、12、17)

2009年12月21日 12:20 | コメント (0)