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『道浦TIME』

新・読書日記 2016_080

『戦争交響楽~音楽家たちの第二次世界大戦』(中川右介、朝日新書:2016、4、30)

著者の中川右介さんから頂きました。いつもありがとうございます。それにしても、この健筆ぶりは凄い。今年もう3冊目・4冊目?佐藤優か池上彰並み・・・というと、ちょっとオーバーだが。

少し前に2016読書日記024で書いた(読んだ)『オリンピアと嘆きの天使~ヒトラーと映画女優たち』(中川右介、毎日新聞出版:2015、12、15)では「映画女優」と「ヒトラー」「第二次世界大戦」の関わりを書いたが、今度は本業の「クラシック音楽」の「指揮者」「作曲家」の戦争との付き合い方、戦争の中でどう生きたのかを描いた。帯に書かれた「カラヤン・ワルター・トスカニーニ・フルトヴェングラー」の4人以外にも、数多くの、おそらく100人以上の音楽家が出て来て、生き生きと動き出す。特にやはり「ナチス・ヒットラー」との距離をどのように取ったのか?がメインテーマのように思う。その時々の政治の・世の中の本流に流されるのか、逆らうのか、まさに「人間の生き方」が問われている。芸術家の場合、その「生き方」が「作品」になっていく。「ナチス」との関わりという場合、世界的な音楽家の中に数多くいる「ユダヤ人」が、どう対応したかも興味の的となる。あるいは「音楽家」が、ユダヤ人たちに対してどう振る舞ったのか、も。

世界のクラシック音楽史上、また演奏レパートリー史上、外すことのできない「ベートーベン」も「ワーグナー」も、「ドイツ」の人。その「ドイツ」を牛耳っている「ヒトラー」。「ナチス・ヒトラー」と「ドイツ(音楽)」は「別物」であると、世界は判断した。「鬼畜米英」の音楽は「敵性音楽」だから一切まかりならん、という姿勢とは違う。

この本を読んで、最後に一番驚いたのは、フルトヴェングラーが「68歳」で亡くなっていたということ。80歳ぐらいで亡くなったかと思っていたが、まだそんな若さだったのか。と言っても当時の68歳は、今の86歳ぐらいの感じだったのかもしれないが。

「音楽年表」でしか、あるいはレコードの中にしかいなかった存在の指揮者たちが、本当に生き生きと蘇ったという感じがした一冊である。

「2016読書日記025」で書いた「『怖いクラシック』(中川右介、NHK出版新書:2016、2、10)も、あわせてお読みください。


star4

(2016、5、9読了)

2016年5月23日 11:11 | コメント (0)