特 集

2020/11/14

特集 01

【特集】新型コロナ感染拡大の震源地と名指しされた新宿・歌舞伎町 終夜営業の調剤薬局“真夜中の保健室”に密着 “夜の街”はいま…

世界中で感染者が再拡大している新型コロナウイルス。日本でも第3波とされる感染が拡大している。人の外出が減ると大きなダメージを受ける場所の1つが繁華街だ。今春の第1波の際、「夜の街=感染拡大の“震源地”」と名指しされた新宿・歌舞伎町はいまどうなっているのか。カメラは「真夜中の保健室」と呼ばれる薬局に密着。“夜の街”のリアル。新宿・歌舞伎町のいまを取材した。


夜の街が目覚め始める午後8時に開店する薬局が新宿・歌舞伎町のド真ん中にある。ニュクス薬局。眠らない街の調剤薬局だ。8畳ほどの店内には風邪薬や胃薬などの他、飲酒用のドリンク剤がズラリ。レジの横には、ボトルキープされた滋養強壮剤が並ぶ。

薬局をただ一人で切り盛りするのは社長で薬剤師の中沢宏昭さん。営業は翌朝の9時までとなるが、どんな人たちがやって来るのか。

午後11時。不眠症の薬を求めてやって来たのは、風俗店で働く女性。休業中は薬を飲んでいなかったが最近仕事を再開し、半年ぶりの来店だという。彼女にとってニュクス薬局は特別な場所だという。

「歌舞伎町を代表する薬局ですよね。本当にココくらいしか夜中やってくれる所がないので、特別な薬局です。ほっとします」(風俗店で働く女性)

日付が変わって午前0時。今度は、近くでバーを経営するママさんと従業員の男性が二日酔い対策の薬を買うために訪れた。経営するお店の状況を聞いてみると…。

「コロナ前と比べて、戻ってきているお客さんはまだ5割いってないですね。3割ぐらいかな?うちのお店は通常営業してるわけではないので。感染対策の徹底とか、完全予約制という貸し切り状態でやったりとか、できる事はやっている」(バーを経営する女性)

「先は全然見えないけれど目の前の事をやるしかない。」そう言って2人は帰っていった。

なぜ中沢さんは終夜営業の調剤薬局を歌舞伎町に開店させたのか。
「夜の活動されてる人口が多い街なんですけど、夜中に開いてる薬局がどこにもなかったんですよ。どうせ独立開業をやるんだったら自分でそれをやろうと思って」
(ニュクス薬局 中沢宏昭さん)

開店して7年となるが経営は順調だった。歌舞伎町の人たちからの信頼も得た。しかし…
「緊急事態宣言があった辺りから、やっぱり人は遠のいてますよね。潰れてる店はバタバタ出てますよ」

さらに追い打ちをかけたのが6月、小池都知事の発言だったという。
「いわゆる『夜の街』関連と。ホストクラブ関係とかそういった方々から陽性者が出ていると」(小池都知事)

この時期、東京都の新規感染者の3割以上が新宿エリアの『夜の街』街関連とされていた。


歌舞伎町でもう一人、都知事発言に疑問を持っていたのが手塚マキさんだ。伝説のホストと言われた手塚さん。現在、ホストクラブやバーなど、10軒以上を経営するかたわら町の清掃活動なども行い、商店街の常任理事も務めている。

「繁華街から感染者が出ていたのは事実なので、それは受け止めなければいけないなというのがまず第一でした。しかし、言いすぎることによって生まれる「分断」があった。『やっぱり夜の街というのは不道徳な人間たちが多い』『不道徳な人間だから感染症を起こす』みたいな雰囲気を作っていましたよね。ただ、そういう雰囲気にしていく事によって『やっぱりあいつ等は悪い奴らだ』と思う人もいるだろうし、我々の方は『俺たちは所詮社会からのつまはじき者なんだ』と思う気持ちになってしまう人も出てしまう。
(歌舞伎町商店街振興組合常任理事 Smappa! Group 会長 手塚マキさん)

手塚さんが感じていたのは夜の街と昼の街の“分断”。埋まらない溝ができたことが感染拡大につながったのではないかと話す。しかし手塚さんは手をこまねいてはいなかった。新宿区長から連絡を受けたことをきっかけに行政と夜の街の架け橋となるべく行動。自らが理事を務める「歌舞伎町商店街振興組合」にも声をかけて連絡会を立ち上げ。新宿区や保健所の担当者と感染対策を具体的に話し合い、1週間に1回のPCR検査など様々な感染拡大防止措置を取り入れていった。


そんな中でホストたちは意外なものに取り組んでいた。心に渦巻く思いを三十一文字に託す…短歌だ。

「歌舞伎町 東洋一の繁華街 不要不急に殺される街」

実は手塚さんが経営するホストクラブでは、2年以上前からホストたちによる歌会を開催していた。目的はその瞬間の思いを言葉に閉じ込めることで、「日々の苦労」を忘れないこと。緊急事態宣言の中でもリモートで歌会を行っていた。歌人・俵万智さんも講師として参加した歌会、その中で発表された歌を紹介する。

「君からの 返信ないが 既読付く 俺に連絡 今自粛かな」
(手塚マキさん評:鈍感な感じがして面白いですよね。自分のせいだと思っていない感じが売れないホストっぽくていい)

「見つめ合い あ、これダメだね 照れ笑い カラダは離すも ココロは密で」
(俵万智さん評:「あ、これダメだね」という臨場感。「これ」としか言っていないから読む人によって想像させられる所もある。やっぱりこういうことは今あちこちで起こっているんだろうなとすごく共感される歌でおもしろかった)

こういった活動を通して、手塚さんが伝えたいこととは。

「芸能人とか国会議員とか、ホストと言うように、ひとくくりに人を判断するのではなくて、その中には、ひとりひとり人間がいるんだよということを分かっていただけるのかなという気がしますね」(手塚マキさん)

真夜中を過ぎ、雨が降り始めた歌舞伎町。終夜営業のニュクス薬局には常連の女性客がやってきた。

「ねーあのさー 見て!この傷あと」(常連の女性客)
「えっ?どうしたの?どうしたの?」(中沢宏昭さん)

女性客は太ももに発疹ができたと相談にやって来たのだ。何もしない状態で明日病院に行った方がいいという中沢さんのアドバイスで一安心。ボトルキープしていた滋養強壮剤を飲み、疲れを癒していた。

まもなく午前4時というところで中沢さんの「ランチタイム」。食事をとりながら、いまの世の中への思いを聞いてみた。

「なにか生きづらい世の中になってきているような気がします。昼の仕事だったりすると、同僚じゃないにしても、愚痴をこぼしたりがあるんでしょうけど、それができる相手がいないケースが多いんですよね、夜に仕事をしている人って」(中沢宏昭さん)


そして薬局には、仕事帰りのキャバクラ嬢が来店。

「この薬を処方してもらって2か月くらいなんだけど、寝る前になるとお腹が空いちゃうんだよね。ごはん食べたら、逆に体重が増えるし」(キャバクラで働く常連客)

「1回いいじゃん。お腹空いたら食べても。太ったらそこは調節しようと考えたらいいだけ。食べられるっていうのは元気な証拠だよ」(中沢宏昭さん)

他愛のない会話にも聞こえる。しかしこの会話の持つ意味は、きっと大きい。

「すごいポジティブな事を言ってくれるのが中沢さんって感じ。コロナになって客層が変わって苦労してる時代で、私たちも抱えてることが多い。でも発散させる場所がないから、こういう所に薬をもらいに行って、話を聞いてくれるっていうのが助かる。中沢さんがいなかったら、私たちの行くところが無い」(キャバクラで働く常連客)


“夜の街”にも朝がやって来る。そして、世の中が本格的に動き始める頃、ニュクス薬局は閉店の時間に。仕事終わりの中沢さんに質問をしてみた。

歌舞伎町を、好きですか?

「大好きですよ。なんでですかね…あったかい街ですよ」(中沢宏昭さん)

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