特 集

2020/07/25

特集 01

【特集】東京オリパラへ1年 実現の‟壁”どこに...二宮清純氏が直言

■コロナ・開催規模・予算 そして…

 東京オリンピック・パラリンピックの開催まで1年。開催の大前提ともいえる新型コロナは収束の見通しが立たず、大会の規模や追加経費負担の議論も宙に浮く。「多難な船出」に追い打ちをかけるかのように日本国内では感染“第2波”に突入したとの指摘もある。中止という最悪のシナリオを回避するために乗り越えるべき‟壁”はどこにあるのか。オリパラ招致と開催の‟裏”を知るスポーツジャーナリスト・二宮清純氏は「今こそ開催の理念を問い直せ」と、根源的な議論の必要性を指摘する。

■「始まりは国立競技場」

 「今回のオリンピックはコロナに生殺与奪権を握られているわけだが、元はと言えば“ケチ”のつけ始めは国立競技場だったのではないかと思ってしまう」

 本来なら開会式が行われるはずだった7月24日、二宮氏は小雨の降りしきる国立競技場を前にオリパラ招致の「歴史」を振り返り始めた。

 東京オリパラの今日までの道のりは険しいものだった。

 まず、国立競技場。当初は2011年、イラク出身の建築家ザハ・ハディド氏(2016年死去)のデザインが選ばれた。しかし、2500億円以上の建設費がかかると判明すると、負担額を巡り東京都の舛添要一知事と下村博文文部科学相(いずれも当時)のバトルが勃発。結局、安倍晋三首相の“鶴の一声”で白紙となり、その後、隈研吾氏の現行デザイン案を採用。建設費も1569億円に抑えられた。

■カネを巡りゴタゴタ “あの人”の参入でさらに…

 “カネ”を巡る紆余曲折は、東京オリパラが常に抱えてきた問題だ。
 東京都が2013年、国際オリンピック委員会(IOC)に提出した「立候補ファイル」で見積もられた開催経費は7340億円。ところが、19年末の最新試算では約1兆3500億円まで膨れ上がっている。

 カヌー競技会場となる「海の森水上競技場」(東京都江東区)を例に挙げれば、立候補時に69億円で計上された整備費は2014年の試算で1038億円に。コストカットで最終的には303億円に落ち着いたが、それでも当初見積もりの4倍以上となった。

 大会組織委員会の森喜朗会長は2015年、「最終的には2兆円を超すことになるかもしれない」との危機感をあらわにしていたほどだ。見通しの甘さを露呈しただけでなく、当初掲げた「コンパクト五輪」の理念も、どこかへ消えた。

 2016年に小池百合子氏が都知事に就任すると、予算を巡る混乱はさらに拍車がかかる。選挙戦の街頭演説で「2兆円が3兆円になり、ひょっとしたらもっと膨れ上がるかもしれない」ことを「お豆腐屋さんじゃないんですから」と皮肉った小池氏。知事就任後は、競技場の建設費や運営費をめぐり組織委の森会長と対立した。

 カヌー競技場など3施設の建設に反対して宮城県登米市の「長沼ボート場」を視察するなどしたが結局、予算を削減したうえで3施設は建設が決まった。

 森会長は著書「遺書・東京五輪への覚悟」(幻冬舎)で当時の思いをこう記す。
 「小池さんとしては選挙民の手前、振り上げた拳の下ろし所に窮したのではないでしょうか」

 二宮氏は「組織委員会、東京都、政府が“ワンチーム”になっていなかった」と指摘する。“同床異夢”の3者が初めて一つになれたのは、コロナ拡大でIOCが中止カードを切りかねないと感じた、今年のことだという。「さすがにこれは困るというあたりでやっと“ワンチーム”になれた」(二宮氏)。

■安心・安全?簡素化? 開催はどんな形で?

 感染拡大が止まらない中で、開催の“形”も定まらない。
 「参加するアスリートの皆さんにとって、また観客にとって安全で安心できるものでなければならない。規模は縮小せずに行う」

 安倍晋三首相は今年3月、史上最多の33競技、339種目を42会場で行う現行の開催規模にこだわる姿勢を見せた。7月に行われたIOC総会でバッハ会長も「会場が多くの熱狂的なファンで埋め尽くされるよう目指している」と語った。
ソーシャルディスタンスの観点から観客数を減らす案も取りざたされるが、バッハ氏は「検討すべきシナリオの一つだと思うが、決めるには時期尚早だ」と述べるにとどめた。

 組織委は、大会規模は維持するものの経費削減や新型コロナウイルス対策を念頭に大会の簡素化を進める方針だ。
今月、日本テレビの単独インタビューに応じた森会長は、「質素にやれることは出来るだけ質素にした方がいい。いくつかの案を考えていくという事じゃないか」と、簡素化開催を容認する考えを示した。
 3000億円とも言われる延期による追加費用を巡っては、今後IOCと組織委、東京都が負担割合などを決める必要があるが、森氏は「そのことで頭が痛い」と語り、妙案が浮かばない苦しさをにじませた。

■環境・復興・・・理念も蛇行

 「”第2波”という心構えを持って、より一層の警戒をする必要がある」(小池氏)現状で、中止を回避するための最大の‟壁“はどこにあるのか。森氏は「国際社会の中で世界の人たちが日本に来て安心安全な五輪を開催できるという、確信を得られるかどうかが最大の問題だ」と語った。


  スポーツジャーナリストの二宮清純氏は“ウィズコロナ”の時代に世界中から東京オリパラ開催への賛同を得るには、より根源的な部分を問い直す必要があると指摘する。

 「そもそも何のためのオリンピックだったのか。招致に失敗した2016年は(理念は)“環境五輪”ということだった。2020年は“復興五輪”にした。コロナになって以降は、“ウイルスに人類が勝った証”(として五輪を開催する)と言い始めた。開催コンセプトがコロコロ変わっている。もう一回原点に戻って一体何のための東京オリンピックだったのか、“レガシーレガシー”と言わないで、レジティマシー(=正当性)を原点に帰って打ち立てるべきではないか」
(読売テレビ「ウェークアップ」)

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