特 集

2020/08/15

特集 01

辛坊治郎が聞く!PCR検査はどこまで必要?新型コロナ治療最前線の医師が明かすコロナの“正体”

8月15日放送の読売テレビ「ウェークアップ」は、各界の専門家で構成する「コロナ制圧タスクフォース」設立メンバーの一人、公立陶生病院(愛知県瀬戸市)感染症内科の武藤義和医師を招き、辛坊治郎キャスターが新型コロナの“現在地と近未来”を解き明かしました。臨床の最前線にいる医師が見る、新型コロナの“正体“とは…。

■現場から見えてきた“正体”は

辛坊キャスター:
このウイルスをどう見れば良いのでしょうか

武藤医師:
新型コロナの「感染力」がインフルエンザウイルス並みに強いのは、事実です。また、若い方が重症化しにくい一方、高齢者は通常の肺炎同様に2割くらいの方が亡くなる場合があります。大事なのは、しっかりと一人一人が感染対策という意識を持ち、ウイルスを広げないことです。最終的には患者さんが急に増えて医療崩壊を起こさせないようにしつつ、医療がしっかりと受けられる状況を常に続けることだと考えています。
「重傷者」減の背景に医療現場の「経験」も

辛坊キャスター:
昨今の感染者数の推移を見ていると、「重症者」がもう少し増えてもおかしくないようにも思えますが、今後はどうなるとお考えでしょうか。

武藤医師:
個人的な印象では、今後「重症者」の数はもう少し増えてくると思います。(重症者の割合が少ない理由として、一部でウイルスの「弱毒化」の可能性が指摘されていることについて)弱毒化という話も聞きますが、我々(治療を)やっている身分からすると、ほとんど変わってないという印象です。やはり高齢者の感染が増えると、明らかに重症の方が増えてくる。仮に少し弱毒化していたとしても、基本的には高齢の方にとっては重症化しやすいウイルスだと認識していただく必要があります。

辛坊キャスター:
とはいえ、重症者数の増え方の曲線が前回ほど急激な伸びでないのはなぜでしょうか。

武藤医師:
大きく二つあると思います。まず現在の感染者は若い方が多いため、重症になる人が少ない。そしてもう一つ。医療現場の知見や経験がかなり増えたということが大きいと思います。3月・4月のころは、我々も「見たことのない病気」でした。医療現場でも、どうすればいいか分からない事ばかりたったのですが、最近は「こういう症状が出ればこういう傾向をたどる。だからこう対処しよう」となってきた。結果的に重症になる前に抑え込めたり、重症になった方をしっかり助けられるようになってきたりしているというのが、この数字に表れていると思います。

辛坊キャスター:
専門医は「これは新型コロナによる肺炎だ」と、分かるのですか。

武藤医師:
経験豊富な医師が診ると、「あっ、これは新型コロナっぽいな」と分かることが結構多くなったと思っています。

■重症化する人の特徴「高齢者、肥満、糖尿病」

辛坊キャスター:
重症化しやすい人の特徴は分かってきていますか。

武藤医師:
日本で亡くなった方の平均年齢が79歳と言われていますので、やはり高齢者です。特に65歳以上で70歳から80歳代。それ以外には、肥満と糖尿病です。肥満といっても、本当に高度な肥満。糖尿病も治療せずにコントロールされていない糖尿病。そういった方は致命率(の上昇)につながってくると言われています。

辛坊キャスター:
若年層の重症化率は相当低く見えます。

武藤医師:
全くその通りで、この傾向は世界中どこでもあると思われています。日本より感染者数が多い国では多くの若年層が亡くなっていますが、比率としては同程度ではないかと言われています。実際、子どもが感染しにくいのは事実です。家族みんなが感染、あるいは濃厚接触者だったとしても、子どもが陽性であることはあまりないというのは事実。たくさん患者さんが出れば、亡くなる方も出てくるとは思うけれども、そうはいっても高齢者のような大きな「山」を作るようなことは、恐らくないでしょう。ただ、0歳以下の子は若干重症化しやすいかもしれないという報告はあります。
感染力は「人より環境」に依存か

■インフルエンザとの比較
辛坊キャスター:
感染の広がり方について、季節性インフルエンザと比較して違いはあるのでしょうか。

武藤医師:
インフルエンザとは感染の仕方が全然違います。ある特定の感染者が多数の人に感染させる一方で、他の感染者は誰にもうつさない。これがこの病気の特徴です。多数に感染させた人の存在を“スーパースプレッダー”と言いまして、まるでその人に何か遺伝的に特徴があるのではないかなどと思われがちです。しかし、やはり環境の要因が大きいと思います。人が集まる所や「3密」の空間など、スーパースプレッダー(感染を拡大させる人)ではなく、スーパースプレッディング(感染が広がりやすい状況)という環境によって、たくさんの人が感染してしまう。

辛坊キャスター:
逆に言うと、ウイルスを持っている人が当たり前の感染予防の努力をしている限りは、そんなに広がらないということですか。

武藤医師:
そうです。まさに現在われわれがやっている、「3密」を避けるとか、ソーシャルディスタンスを確保するというのは、最も有効であると言われています。

■「感染者」と「発症者」の差は?

感染者の8割は軽症
辛坊キャスター:
WHO(世界保健機関)が今年1月、感染者が発症しても8割の人は症状が軽いという見解を表明してから、あまり情報が更新されていないように思います。ウイルスを持っている人が実際どのくらい発症するのかという正確な数字は分かっているのでしょうか。

武藤医師:
はっきりとはしていないのですが、感染していることが明らかになっている方の中で、症状が出る方は約半数くらいではないかと思います。

辛坊キャスター:
ということは、残りの半分くらいは無症状ということですか。

武藤医師:
そうですね。そういう方々がいつ感染したかもわからず、人に感染させる力がどのくらいあるのかもはっきり分かっていません。

辛坊キャスター:
「無症状で後に症状が出る」人は、その症状が出る直前の「無症状期間」の感染力が非常に高いという話を聞きますが、最後まで発症しない無症状の人が、どの程度の感染力があるかについては分かっていないということですか。

武藤医師:
海外では、発症した人の7割くらいの感染力という報告もありますが、全く症状がないままに経過された方がどういうふうに人にうつしているか、はっきりしたデータはまだありません。そもそも鼻にウイルスがついているだけでPCR検査が陽性になった可能性の方もいますので。

辛坊キャスター:
「3密」の空間で大量にウイルスを鼻から吸い込んだ後にPCR検査で鼻の粘膜を採取したことで、陽性反応が出る可能性もあるということですか。

武藤医師:
そのとおりです。感染しているかもはっきりしないのにPCRで陽性だった人も存在すると思われます。
PCR検査体制「まだ足りないが、やみくもに増やせば逆効果」

辛坊キャスター:
PCR検査を巡っては、「正確性」の問題も指摘されています。本当は陽性なのに陰性と判断されるケースが3割程度あるとも言われています。検査数をやみくもに増やすことで、この3割の人が「自分は陰性だ」と思い込んで振る舞ってしまう危険もありそうです。

武藤医師:
本当は感染しているのに陰性が出た方々は、安心してどこかに行ってしまう問題はすごく大きいです。実際、PCR検査は発症の2日くらい前になると、ほとんど陽性反応が出ないんです。2日間、感染しうるのに陽性にならない。

辛坊キャスター:
そうなると、感染経路が不明の人も増えている現状で、3割見逃してしまうPCR検査で感染者を見つけ、その人たちを隔離してまん延を止めるという今の日本の方針がどのくらい有効なのかと、素朴に思ってしまいます。

武藤医師:
感染率や有病率から、どのくらいウイルスがまん延しているかを判断して、PCR検査の実施範囲を変えていくことは、考えていかなければならないと思います。ただ、現時点では、現場の医師が検査すべきと思った方に滞りなく検査できる環境を作ることが第一だと思います。そうした観点からの検査体制がまだ足りていないのは事実で、もっと増やさなければならない。しかし、だからといって誰でもPCR検査を受けられる体制にして、本当は感染しているのに陰性だったり、逆に感染していないのに陽性が出たりする人をいたずらに増やしていくことは、現状ではお勧めできません。

■どうなる薬とワクチン

辛坊キャスターと武藤医師
辛坊キャスター:
国内で承認されている治療薬「レムデシビル」と「デキサメタゾン」の評価はいかがですか。

武藤医師:
この二つの薬を使えば確実に治るというものではありません。そもそも、ウイルスの病気でそういった(細菌に対する抗生剤のように直接効く)薬のある病気はほとんどありません。抗インフルエンザ薬の「タミフル」も、熱が下がるのが数時間は早くなるというレベルものです。そうした中で、承認された薬をうまく使いながら症状をコントロールしていきたいと思っていますし、これから新しい薬が出るといいなと思っています。

辛坊キャスター:
世界中でワクチンの開発競争が熱を帯びています。現時点で有効性についてはどうお考えですか。

武藤医師:
ワクチンについてはどのくらい効くのか、あるいは何年間効くのか、そして安全性もまだ分かっていません。一番早く作ることが目的ではなくて、一番有効なものを作る。そういう考え方を持って開発していただきたいです。
■猛暑のマスク「他人との距離があれば外して」

辛坊キャスター:
暑い季節になり、環境省と厚生労働省は屋外で他人と2メートル以上の十分な距離がとれている場合は熱中症を防ぐためにマスクを外すよう呼び掛けています。マスクの効用あるいは屋外での使用について、どうお考えですか。

武藤医師:
基本的にマスクは、大きな飛まつを自分の口から飛ばさないことを目的としているので、ウイルスの除去(マスクを着用している人の口や鼻からウイルスが侵入するのを防ぐ)効果はかなり弱いといわれています。そうはいっても無症状のうちに感染させる人がいる以上は、つけないという選択肢はない。しかし、(ウイルスの)飛距離と熱中症のリスクを考えると、2メートルないし3メートルぐらい離れることができれば、マスクをつけなくても感染はしないという認識です。
今冬はインフルエンザの予防接種を!
辛坊キャスター:
日本感染症学会が、今年の冬場に新型コロナとインフルエンザが同時に流行すれば医療現場が大変だということで、インフルエンザの予防接種を呼びかけています。

武藤医師:
今年の1月と2月は、インフルエンザの感染者がかなり少なかった。(手洗いなどで)新型コロナの感染対策をしっかりしていたというのもあると思いますが、一般的にウイルス同士って仲が悪いので、複数のウイルスに同時に感染する、新型コロナとインフルエンザが両方同時に流行するとは考えにくいです。しかし(症状が似ているので、新型コロナかインフルエンザか)どちらか分からなかったりすることを考えると、インフルエンザのワクチンを接種することで、少なくともインフルエンザは抑えておく必要がある。積極的な予防接種をお願いしたいと思います。

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