特 集

2020/07/11

特集 01

「オンライン授業」‟第2波”に向け備えは?現場は悲鳴「時間がない」

 今春、新型コロナウイルスによる一斉休校で脚光を浴びたオンライン授業。感染“第2波”対策に加えて不登校児への支援などに期待が集まる一方、学校再開後の現場では活用・研究が止まるケースも。教師たちが感染防止対策や“授業遅れの取り戻し”に手一杯なためで、自治体や学校ごとに「温度差」があるのも事実だ。政府は3年後の「一人1台」の端末配布を目指すが、現場の受け入れ態勢が追い付かない現状も浮かび上がる。

■オンライン授業の現場は休校中に…

先生「植物の発芽に必要な条件は…」
児童「空気!」
先生「正解 みんなよう覚えとるやん」

 兵庫県淡路市立北淡小学校5年1組の教室で5月下旬、同校初となるオンライン授業が試験的に行われた。初回は児童一人一人の表情が分かるように、15分の授業を3グループに分けて実施。担任の吉岡幸広主幹教諭(48)が算数や理科、国語の自習課題の一部をフォローした。
 各家庭との通信環境は良好で授業はスムーズに進行したが、内容は当初予定の半分もできなかった。タブレットの終了ボタンをタップするや否や吉岡教諭は本音をのぞかせた。「あ~疲れる。普通の授業の方がええわ」
 「オンラインで(本格的な)授業を『やれ』と言われればできることは分かったが、子どもの反応が見えない。子ども同士が意見を述べ合い、そこに教師が参画して教室全体で理解を深めていくような対面授業の“空気感”をオンラインでどこまで再現できるのか…」との疑問も沸いたという。
 今回は試行的な取り組みのため自主参加だった。参加率は6割弱。吉岡教諭は植物の成育など「季節感」が学習の鍵となる理科を中心に、YouTubeで自作の動画も配信したが、こちらも視聴回数は半数程度。「親が共働きなどの(自宅に一人でいる)子どもたちの参加率が低かったのではないか」と分析する。

■実施できたのは全国1割程度か

 淡路市教育委員会は2012年からタブレット端末を活用した授業の研究を開始。18年度には市内の小学4年生から中学3年生の全員、約2000人分の端末を確保した。一斉休校後の調査では自宅に通信環境が整っていない生徒が約100人いたが、Wi-Fi端末を無償貸与することで5月中旬にはオンライン授業を行える環境が整った。今年度中には小学1年から小学3年生の端末も確保できる見込みで、以前からタブレット端末の活用に関心を持ってきたことがコロナ禍で奏功した。
 しかし、全国で一斉休校期間中にオンライン授業を実施できた地域は少なかったようだ。内閣府が先月公表したインターネット調査では、休校期間中に「通っている学校のオンライン授業を受けた」のは全国平均で約10%にとどまった。
東京、大阪、名古屋の都市部を除いた「地方圏」で6.7%だったのに対し、東京23区では26.2%。都市と地方の“地域差”も浮き彫りとなった。

■教師同士の情報交換もオンラインで

 桐蔭横浜大学などを運営する横浜市の学校法人桐蔭学園は、全国の教諭をオンラインでつなぐ、「教育コロナ会議」を主催。4月から6月末まで計7回、延べ2000人以上の学校関係者が参加し、オンライン授業の在り方などコロナ禍の教育課題について解決の糸口を模索した(6月末で一旦終了)。

■メリット・デメリットは?

 会議の発案者である桐蔭学園の溝上慎一理事長(教育学)は、オンライン授業の最大のメリットを、子どもの状況に応じた教育の“個別最適化”だと指摘する。「いろんな状況に置かれた子供たちが学んでいける。例えば不登校の子が学びを続ける権利をオンラインで受けられる。学びの早い子どもが遅い子どもと同じ空間時間でともに過ごす必要もなくなる」と話す。
 溝上理事長によると、同学園の高校生には既に理解している項目の動画を2倍速、3倍速にして「飛ばし見」する生徒もいるといい、「こうした経験をした子どもは画一的な対面授業では満足しなくなる」と強調する。
 会議に参加した現役教諭からも、「成績中位層から上位層は、(動画などの)映像を自主的に観て学習していたということが、テストの点数とか学校再開後の質問内容から分かった」(茨城県立並木中等教育学校 粉川雄一郎教諭)との見方が示された。
 成績上位層には、オンライン授業が対面の代替か、それ以上の効果をもたらす可能性がありそうだ。
 一方、コロナ禍のオンライン授業では成績下位層に対してのフォローが不十分だという点も、会議を通じて明らかになったという。
 溝上理事長は「成績の中下位層がこれまで対面授業の中でどうやって学びを続けてきたかというと、先生とのかかわり。個別の先生が生徒たちに声をかけ、時には叱り、学びを展開してきた」としたうえで「オンライン授業が今回、対面授業で支えていた部分を如実に浮き彫りにした」と語った。

■民間ノウハウ活用で新たな可能性も

生徒「わからない問題が2個あって」
大学生「じゃあ、画面に写してもらっていいかな」

 神戸市は6月、親が経済的事情を抱える中学3年生を対象にオンラインの個別学習支援制度の無償提供を始めた。自治体によるこうしたフォローアップは全国初の取り組みという。
 経済的事情を抱える子どもたちの学習環境について、神戸市企画調整局の佐々木宏昌特命課長は「長期休校で学習遅れの状況が個人単位で大きく異なると感じる。特に家庭の経済事情による学習格差が残念ながら一層拡大していると思う」と話す。
 こうした現状から、神戸市は福祉事業の一環として、全国で家庭教師派遣などを展開する「トライグループ」(東京)に業務委託。民間企業のノウハウを活用し、生徒は週1回、50分の授業を大学生講師から無料で受けられる。

生徒「数式の展開は、これで合っていますか?」
先生「うんうん。合ってる合ってる」
 地元の公立進学校を目指す神戸市の中学3年生、薬師神杏美さん(14)とスマートフォンに映し出された「先生」との会話が弾む。この日は自力で解けなかった1次関数の数式をモニタに映しながら解いていった。
 自宅で自習していた休校期間中は、分からない項目は放置するしかなく、学習の遅れに焦りを感じていたといい、「(休校で)先生に聞けなかったことをオンラインで教えてもらえるので、質問できる機会ができたのが一番大きい」と話した。
 この無償授業、当初は6月のみの予定だったが、利用者からの要望を受けて神戸市は来年3月までの継続を決定。今月からは経済的事情を抱える中学2年生にも対象を拡大したほか、来月からは長期入院中の小中学生や不登校の中学生にも広げる。

■今後どうなる?

 文部科学省の調査によると、学校などに配備されているコンピューター1台あたりの児童生徒数は、2007年の「7・3人」に対して2019年は「5・4人」。昨年の調査時点で配備は進んでおらず、教育用のコンピューターが「5人に1台」しかない環境と言える。
 同省は昨年12月、全ての小学1年生から中学3年生の児童生徒向けに学習用端末を1人1台導入することや学校内の通信環境整備などを柱とした「GIGAスクール構想」を公表。新型コロナによる一斉休校を受けて達成目標を前倒しし、2023年度(令和5年度)中とした。
 構想について桐蔭学園の溝上理事長は「現場視点では十分な形とは言えないが、構想をきっかけとして、追求を止めてはならない。新型コロナの‟第2波”や大災害時の休校への備えとしてオンライン授業は必要だ」と強調する。

■「先進的」な現場でさえも…

 学校が再開した6月、北淡小にも子供たちの姿が戻った。感染を防ぐため、スクールバスの定員を削減する代わりに、台数はほぼ倍増。登校直後は子どもの体温チェック、下校後は職員が総出で消毒作業と、教師たちにとっては大忙しの再開となった。
日々の仕事量が増える中、吉岡教諭はオンライン授業の取り組みが進まない現状を嘆く。
 「対面授業の準備や新しい学校生活様式の指導、感染阻止策の対応に追われていて、オンライン授業の研究が深められない。時間がない」
(読売テレビ「ウェークアップ」)

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