• 『アニ民243人目』オペラ歌手の中島啓江さん
  • 『アニ民243人目』オペラ歌手の中島啓江さん

  • 2014.12.11

 今週のアニ民は先月突然に鬼籍に入ってしまったオペラ歌手の中島啓江さんです。ここではいつものように中島さんのことを啓江さんと呼ばせてもらいます。だいたいこの「アニメ村のステキな住民」というタイトルのページになぜ中島さん?と思われる方も多いと思います。僕を初めて啓江さんに会わせてくれたのは、僕の友人で啓江さんの所属事務所ピュアハーツ社長・岡田秀春さんでした。岡田さんとはそこの社長になる前からの知り合いでしたので、その大物オペラ歌手の啓江さんを気軽に紹介してくれたのです。

 初めて食事をしたのは新宿2丁目の普通のカフェだったでしょうか。その後も僕がお連れした新宿・花園神社近くのカジュアルフレンチだったり、最近では事務所近くの西新宿近辺だったり。どんな場所でも啓江さんは明るくハッキリしたキップの良いおねーさんでした。どんな話題にも意見を持ってて頼りがいがあり、大きな声でカラカラ笑う体格以上に大きな存在。一緒にいると楽しいと思う以上に包まれたりする安心感があったものです。

 あれはコナン映画10作目「名探偵コナン 探偵たちの鎮魂歌(レクイエム)」の完成披露試写会後の打ち上げ会場でした。この年の前後、啓江さんは時間が合えば岡田さんとコナンの試写会に来てくれてたのです。せっかくなので打ち上げにもお誘いして、青山剛昌先生や山本監督・高山みなみさんらと一緒の席を用意。映画の感想やいろんな話題で盛り上がりました。興が乗ったのかそこで啓江さんがおもむろに「じゃあ、一曲やってみるか」と即興で歌ってくれたのが「アメイジング グレイス」でありました。

 その店は神保町の大きめなレストランバー、マイクなどあるはずもなく、文字通り一人アカペラ。なのにその声の通り方ったらものすごい!プロの発声というか技量力量を骨の髄まで感じることが出来たのです。聞き終わってのなにかしら心が透き通った感じと、わあっ!と力いっぱいの拍手をしたくなるあの気持ちを今でもしっかり思い出せます。

 その歌をそこで聞いたことが映画「名探偵コナン 戦慄の楽譜(フルスコア)」につながるのです。この映画は「アメイジング グレイス」のソプラノアカペラソロを劇中でお聞かせする、その事がシナリオ作りの第一歩でした。一緒に聞いていた青山先生も大絶賛で「こーゆー感動をコナンでやろうよ」と映画制作のきっかけになったことは一生忘れられません。歌っている人は違いますが、(劇中で歌ってくれたソプラノ歌手は赤池優さん、この方も偶然に僕の知り合いだったりします)その映画を12月19日このタイミングで放送出来るなんて、何かの縁としか言いようがありません。

 年に一度、銀座8丁目「博品館劇場」で「夢で逢いましょう」コンサートを20年近く続けた啓江さん。僕は啓江さん歌う「アメイジング グレイス」や「千の風になって」も大好きですが、「卒業写真」という歌にはいつも目が潤まされます。卒業して随分経ったあと、写真を指差しては、今は何をしてるのか知っている同級生を「この子は今は…屋さん」などと歌っていく、そんな歌詞。啓江さんが歌うと言葉が自分にしっかり返って来て、なぜか胸の奥が熱くなる。そんな経験を何度もさせてもらいました。

 僕らスタッフとも気軽にカラオケに付き合ってくれて、とんでもないプロの歌声を惜しげもなく聞かせてくれた啓江さん。「ありがとう」の言葉を大切にされ、「歌は楽しくなくちゃね」っていつも言ってくれた啓江さんの声を、もう2度と直接聞けなくなってしまいました。本当に残念です。そして本当にありがとうございました。享年57歳、若すぎます。心から御冥福をお祈りいたします。