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◆ことばの話2565「公判前整理手続き」

「ウェークアップぷらす」のスタッフM君から、質問を受けました。
「道浦さん、『公判前整理手続』って、ありますよね。あれの『前』は、『まえ』でしょうか?それとも『ゼン』でしょうか?」
「うーん、どっちだったかなあ。まだ統一してないんじゃない?」
「『期日前投票』の時は、法律上は『ゼン』だけどわかりにくいので、『まえ』で統一するというふうになりましたよね。この場合もやっぱり同じようにするんですか?」
「うーん、聞いておく。」
ということで、
「お忙しいところ申しわけありません、またまた、質問です。裁判の迅速化を目指して、2005年11月から始まった「公判前整理手続き」という制度ですが、この「前」は、「まえ」
と読んでらっしゃるでしょうか?それとも、
「ぜん」
と読んでらっしゃるでしょうか?もしくは、違う言い方で噛み砕いて説明しているのでしょうか?法律の正式名称としては「ぜん」ですが、「期日前投票」も法律では「ぜん」だけれども、放送ではわかりやすさを求めて「まえ」と読むようにしています。それと同じような対処でよいのでしょうか?よろしくお願いします。」
というメールを出して、各社の状況をメールで聞いたところ、次々と返事をいただきました。これは、その社の公式見解ということではなく、あくまで私の知り合いの方々の個人的な見解や、現状をご報告いただいたものを完結にまとめてみました。

(日本テレビ)
「まえ」。「期日前投票」と同じように対処している。

(中京テレビ)
まだニュース原稿に出てきていないが「まえ」と読む方針。理由は、「分かりやすさ」を優先したため。ただ新しい制度名なので、説明をつけながら「まえ」という読み方になるだろう。

(静岡第一テレビ)
「初公判前に争点を絞り、分かりやすく迅速な裁判をおこなうための『公判前(ぜん)手続き』」と、枕詞つきで使うようにしている。裁判用語なので読みは変えずに「ぜん」。

(日本海テレビ)
「まえ」としている。理由は「より分かりやすい」との判断から。NTVから読み方を通知してきたことは、まだないと思う。以前、日本テレビは「期日前」について「ぜん」から「まえ」に途中で変更したと記憶している。

(福井放送)
「まえ」と読んでいる。理由は「きじつまえ」と同じで、放送上での音としての分かりやすさに配慮したため。
「ぜん」は「全・善・漸・・・」など読みかたも色々だし、「期日前投票」の「まえ」と同じような考え方。特にラジオのニュースでは、「まえ」と読まないと「前」のいう字が想像できない。

(南海放送)
「まえ」と読んでいる。公判「まえ」に行う整理手続きという意味だから。「全」などとの間違いがないように「まえ」と読んでいる。

(テレビ金沢)
「期日前投票」の場合は、法律の条文に読み方の規定はないが、自治体の選挙管理委員会が「『ぜん』と読んで欲しい」と言うので、選管広報では「ぜん」と読んでいるが、ニュースでは「分かりやすさ」から、「まえ」を採用している。(「期日前」を「まえ」と読むことについては、一度、NNNの用語基準がファックスされたことがあり、報道フロアに長く掲示されていた。)
同じような考え方で「公判前」は法律の規定がどうであれ「こうはんまえ」と読めばよいと考えている。法律は活字メディアの一種で、音読することまで考えていないのだと思う。

(福岡放送)
残念ながらアナウンスしたことがない。放送上は「競売」=「けいばい」(法律用語)→「きょうばい」(放送用語)のように読み方が変わるのか?

*、日本テレビ系列の広島テレビの記者は、5月15日、広島の小一女児誘拐殺人事件のトレス・ヤギ被告の初公判の中継の中で、
「公判前(まえ)の整理手続き」
と言ってた。

(テレビ朝日)
ANN系列では「まえ」で統一した。理由は「期日前投票」と同じで、分かりやすさを優先させたから。

(朝日放送)
今日(5月15日)の昼ニュースで、テレビ朝日系の広島ホームテレビは『ぜん』と読んでいたが、当社のテレビデスクは『まえ』と読みたいと言っていた。ちなみにラジオニュースでは『まえ』と読んでいる。『ぜん』では聞いていて何の事かわからないから。

(テレビ東京)
報道現場では「まえ」に統一している。アナウンス部への問い合わせで「まえ」に統一を提案し、そのまま受け入れられた。「期日前投票」を「まえ」と読むのと同じ。

(毎日放送)
「公判まえ整理手続き」と読んでいる。他の事例と同じ理由。

(静岡放送)
「まえ」。「期日前投票」も、放送ではわかりやすさを求めて「まえ」としたように、「競売」も法律では「けいばい」であっても「きょうばい」と読むように、「公判前整理手続き」も「こうはんまえ・せいりてつづき」と読んでいる。

(フジテレビ)
「まえ」にしている。視聴者にとって聞いて解りやすく、耳あたりの良いことから、『公判前整理』『期日前投票』『着床前診断』などすべて「まえ」で読むようにしている。
FNNでは、用語・用字の使い方は、『共同通信・記者ハンドブック』を基本とするとしており、共同通信でも「まえ」とカナで表記されている。2006年度のFNN用語統一でもそのように読むように書き加えた。

(NHK)
「期日前投票」の「前」は、法律では「ぜん」だが、放送ではわかりやすさを求めて「まえ」と読むようにしているのと、原則的には同じと考える。「臨界前核実験」「着床前診断」(NHKは「受精卵診断」)などもわかりやすさ(「全」との区別など)から「まえ」と読むようにしている。「公判まえの〜」という言い方もありうるだろう。

たしかに*5月15日朝8時台のNHKニュースを見ていたら、広島の女児殺害事件の被告、ホセ・マヌエル・トーレス・ヤギ被告の事件で、
「公判の事前に・・・」
というふうに説明していて、「前」=「まえ」か「ぜん」かの問題には触れないようにしていました。

(共同通信)
「まえ」と読むことにし、昨年(2005年)、契約社へ案内を出した。「期日前」も同様に「まえ」。いずれもルビを打つよう指導している。また、道浦氏ご指摘のように噛み砕いたりするケースもある。
「裁判所が初公判の前に争点と証拠を整理する手続き…」
だと長いのでで、
「初公判の前に争点などを整理する…」
などと使えば「まえ」としか読みようがないので多用しているようだ。

ということで、5月18日までにご回答をもらった社の中で、静岡第一テレビが「ぜん」のほかは、ほぼ全社「まえ」もしくは、わかりやすく噛み砕いて言うでした。
念のため、まとめてみると、17社中、
*「まえ」=15社
日本テレビ、中京テレビ、日本海テレビ、福井放送、テレビ金沢、南海放送、テレビ朝日、朝日放送、フジテレビ、テレビ東京、毎日放送、静岡放送、NHK、共同通信、(広島テレビ)
*「ぜん」=1社
静岡第一テレビ
*「わからない」=1社
福岡放送
ということになりました。
2006/5/19
(追記)

テレビ朝日では、5月11日に社内統一見解が出て、「公判前整理手続き」は放送での読みを、
「こうはんまえせいりてつづき」
に統一したそうです。
2006/5/24



◆ことばの話2564「でんぐりまい」

先日「ゲツキン!」のメイン司会者、大平サブローさんが、番組の中で口にした言葉に、「おっ」と引っかかりました。それは、
「でんぐりまい」
という言葉。恐らく、
「前回り」「前転」
のことだと思います。私も
「でんぐり返り」
「でんぐり返し」
とは言いましたから。「前転」の幼児語なのかな?それとも方言なのか?「まい」は「舞い」ではなく「まわり」が短くなったのでは?
Google検索では(5月19日)
「でんぐりまい」=1件
なんとたったの1件!関西在住の女性のようで、こんな文脈で出てきました。あの森 光子さんの「放浪記」に関してです。
「H17年2月に"森 光子℃蜑奄フ『放浪記』を観に行き、彼女のでんぐりまいをこの目で見届けていたので」
「その主人公を演じた"森 光子≠ヘ、でんぐりまい程の迫力が、感じられなくて、やや残念!!」
2回出てきました。また、
「でんぐり返り」=2万2300件
「でんぐり返し」=7万5700件
これは数が多いですね。もひとつ、ついでに、
「でんぐり」=11万9000件
これも多いな。「でんぐり」ってなんだろうか?『新明解国語辞典』を引いてみると「でんぐり返し」の項目に、
「『でんぐり』は、転倒の意の動詞『でんぐる』の連用形」
とありました。「でんぐる」は見出しにはなっていませんでしたが。もしかしたら、
「天繰る」
なのかな?思いつきですが。牧村史陽『大阪ことば事典』には、
「デングリガエル、デングリガイル」=ひっくりかえる。転倒する。
としか載っていませんでした。「でんぐりまい」、珍しい言葉を見つけました。得した感じ。
2006/5/19


◆ことばの話2563「シーズナル」

ゴールデンウイークに、『名探偵コナン』の映画を、小学3年生の息子と一緒に見に行きました。なかなかおもしろかったのですが、その帰りに、
「何かおみやげ、買って!」
と息子に言われて、コナンの下敷きと記念メダルを買ってやりました。800円なり。
そのレシートを見ると、明細のところに、
「シーズナル」
と書いてあったのですが、一体「シーズナル」って何だろう?そう思って調べてみたら、どうやら、
seasonal
つまり、
「シーズンの」「季節限定の」「季節もの」
というような意味のようです。なるほど、たしかに映画館の売店で売っている商品は、その映画が上映されている時にしか販売されませんね。そういう意味では「季節もの」なんですね。「春・夏・秋・冬」という季節とはちょっと違いますが、
「上映の季節」
ということのようです。
映画業界だけではないかもしれませんが、これも業界用語ですね。でもレシートに書かれていると、客の側としては、何を買ったのかよくわからないのですがねえ・・・。
2006/5/18


◆ことばの話2562「(笑)」

ある雑誌の対談を読んでいて、
「(笑)」
というのが出てきました。雑誌などではこれまでに何度も目にしていたのですが、最近はメールやインターネット上で見ることが多くなっています。そして以前、ミスを指摘した相手から、
「単純ミスです(笑)」
というメールが返ってきて激怒したこともあります。(「平成ことば事情841」に書きました。もう4年も前の2002年9月のことでした。)
しかし今回は、この雑誌の(笑)を見て、ハタと気づいたのです。
なぜ、メールの(笑)はハラが立つのに、雑誌の(笑)にはハラが立たないのかについて。
これまでの(笑)、雑誌で見てきた(笑)は、
「対談の中で実際に起きた『笑い』を『第三者』が記録した」
ものでした。それに対して、ネットで出てきた(笑)は、
「実際には起きていない『笑い』を、『自ら』発言の照れ隠しとして使っている、主観的な用法で、実態から遊離したものになっている」
のです。だから、その表現を受けた相手は、
「ちっとも、おもろくないやんけ」
と、そこに不快感を覚えるのではないでしょうか?
ね、どうです?おもしろいでしょ(笑)。
(さあみなさん、ご一緒に「おもろ、ないやんけっ!!」)
2006/5/12


◆ことばの話2561「サラリーマンとビジネスマン」

「24時間、働けますか?」
のコピーで一世を風靡した、あのドリンク剤「R」。
コマーシャルソングにも「24時間働けますか?」という台詞があって、そのあとに、
「♪ビジネスマーン、ビジネスマーン♪」
と呼びかけていました。商品購買者層は、ドブねずみ色のスーツを身にまとった、
「サラリーマン」
ではなく、世界を股に駆けて活躍するカッコイイ、
「ビジネスマン」
が対象でした。いや、現在は「サラリーマン」だけど「ビジネスマン」を目指して頑張っている人や、「ビジネスマン」を夢見ている、あこがれている人たちが対象だったのでしょう。これを飲めば「ビジネスマン」になれる、と。バブル華やかかりし頃でしたから、今から16、7年前ですかね。
その後、バブルの崩壊で、「24時間(がむしゃらに)働ける」ことの意味よりも、「ゆとり」だとか、「自分の時間」が重要視されるようになってきて、一時、このコマーシャルも見かけなくなったな、と思っていたら、今日久々に見かけました。出演者は変わっていたけど、同じコマーシャルソング。「24時間働けますか?」という昔と同じ台詞がありました。しかし、その最後の問いかけの対象が変わっていたのです。
「♪サラリーマーン、サラリーマーン♪」
あれれ?ビジネスマンじゃなくて、サラリーマンなの?購買者層は。これは「サラリーマン」の地位が上がったのか、ドリンク剤がターゲットとする購買者層が変わったのか?どうなんでしょうね?
でも、またこのドリンク剤が必要とされる時代になりつつあるというのは、確かのようです。コマーシャルやるぐらいだから。「ミニバブル」なんてことも言われているようだし、「いざなぎ景気」を超えそうなほどの景気が続いているそうだから。実感ないけど。
2006/5/6