【震災から27年】震災当時取材したラジオリポーターが“再び震災を語る”ことを決意した理由とは?

 震災当時、兵庫県が臨時で設けたラジオ局で、被害の状況を連日伝え続けたリポーターがいます。三条杜夫さん(74歳)。長年、震災を語ることを避けてきましたが、27年経った今年、初めて震災の記憶を“朗読劇”の形で伝える事を決意しました。その理由を取材しました。

阪神・淡路大震災から27年…今、再び“震災を語る”

 1995年1月17日、6434人が犠牲となった阪神・淡路大震災が発生しました。震災当時、兵庫県が臨時で設けたラジオ局で、被害の状況を連日伝え続けたリポーター、三条杜夫(さんじょう・もりお)さん、74歳。長年、震災を語ることを避けてきましたが、今、震災の記憶を“朗読劇”の形で伝える事を決意しました。27年の沈黙を破った理由とは―。

震災朗読劇の発表会(1月13日、兵庫県神戸市中央区)

「火事です!火が出ましたよ…熱い!助けて…」

 1月13日、神戸市内で開かれた震災の朗読劇の発表会。会場の片隅に、朗読を静かに見つめる男性がいました。ラジオリポータ―の三条杜夫さんです。彼が、震災について語るためには、27年という時間が必要でした。

震災当時、火の海に包まれた神戸市長田区(1995年1月)

(三条杜夫さん)
「ここは地震が起きて、生きていたのに逃げることができなくて、燃え尽きた街なんです。」

 長田の街を眺め思い出すのは、6434人が犠牲となったあの日。この街もあたり一面が火の海に包まれました。

 地震から約1か月後、兵庫県は、全国で初めて災害臨時放送として、ラジオ局「FM-796フェニックス」を開設します。1か月半の間、安否情報や被災者の声を伝え続けました。当時のタイムテーブルには三条さんの名前がありました。ボランティアとして放送に参加していたのです。

地震直後の三条さん(当時47歳)

 ラジオ放送を録音したカセットテープには、被災地の状況を語る三条さんの声が残っていました。

(三条さん・ラジオでのコメント)
「地震の直後、停電していたが、しばらくして外が明るくなりました。よかった、電気がついたと思った。ところが、それが火事…」

三条さんが撮影した写真は1000枚以上に…

 三条さんは当時47歳。自宅は被災したものの、地震の2日後からペンとカメラとマイクを手にして被災地を回り、連日取材を重ねました。撮影した写真は1000枚以上。目の前に広がる光景を残さねばと、来る日も来る日もシャッターを押し続けました。しかしー

(三条さん)
「『はっ』と気が付いたんです。うわっ、この下に人様が、まだこの下にいらっしゃるんだよなと          思ったら、写真が撮れなくなりました。マイクに向かってしゃべることもできなくなりました。ただひたすら合掌ですよね。」

当時の取材ノート

(三条さん)
「いっぱい夢中で取材しましたけど、あまりにも自分の身近な街すぎるわけですよね。やっぱり、悲しいことっていうのは、忘れたいですよね。語りたくないですよね。」

 リポーターとして”伝える”ことを仕事にしてきた三条さん。しかし、被災地で見聞きした話の数々は辛く悲しいものでした。地震から2か月半後、県のラジオ局の閉局とともに三条さんは、震災について語ることをやめました。

再び“震災を語る”ことを決意した理由は…

 あれから27年・・・三条さんが再び震災を語ることを決意した理由は何だったのでしょうか。

(三条さん)
「私の周りも天国へ行く友人、仲間がいる。いつまでも僕はこの世にいません。せめて、何があったのか語れる間は語りましょうか。」

 当時の仲間たちが世を去っていくなか感じたのは、自分の使命でした。三条さんは27年間、開くことのなかったノートを読み返し、当時取材したことを基に朗読劇をつくることを決意。しかし…脚本は書きあげたものの、読みあげることはできませんでした。

(三条さん)
「僕の言葉では語れません。こうなっちゃうもんね。(涙を拭いて)すみません。」

 そして、1月13日に神戸市内で発表された朗読劇。タイトルは「生きながら燃えて」。生き埋めになった息子を助けられなかった父親のエピソードです。朗読する女性の声が響きます。

朗読劇「生きながら燃えて」が上演された

息子)親父ー。柱が足を挟んで動かれへん。
親父)助けるから待っとれ。
近所の人)火事や、火事やで。
息子)親父、もうええ。逃げてくれ。
親父)あかん、お前は大事な息子や。
息子)親父!はよ逃げてくれ!
親父)なんで逃げたんやろ、わし。なんで助けられへんかったんやろ。わしだけ生きてよかったんやろか。

朗読を聞いた人からは…
「重いですね。温度というか、そのときの感じが直で伝わってくる。」

 取材者として抱えてきた葛藤と伝えていく決意…三条さんは今が新たなスタートだと話します。

(三条さん)
「歴史になるんですよ。もう27年という歴史になっていますけれど。歴史は形じゃない、その中に何があったか、内容を伝えるべきです。だから何年かかっても伝えましょうよ。」

(読売テレビ 「かんさい情報ネットten.」 2022年1月17日放送)

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