6月1日(水)
【記者解説】「線状降水帯」予測情報の運用開始、“12時間前予測”で豪雨被害は軽減できるのか?メリットと課題を徹底取材
近年、各地で大雨をもたらす要因となっている「線状降水帯」。一足早く梅雨入りした沖縄県糸満市では、5月31日に激しい雨が降り道路は冠水、車が半分以上水に浸かるなどの豪雨被害が出ました。このような被害をできるだけ少なくするため、6月1日から線状降水帯の「予測情報」の運用が始まりました。この予測情報とは、一体どのようなものなのか?メリットと現状の課題を取材しました。

「線状降水帯」発生の様子
水分を含んだ風が山などにあたると上昇気流が強まり、積乱雲が発生します。専門家によると線状降水帯とは、この積乱雲が風下に流され、そこに次の積乱雲が発生し、それが繰り返されることで、結果として同じ場所で長時間にわたって激しい雨をもたらすとされる現象、ということです。雨雲の範囲は数百kmにも及ぶこともあり、同じ場所で激しい雨が降り続けるため、広い範囲に甚大な被害をもたらします。この線状降水帯は、日本や韓国など東アジアの一部でしか発生しない珍しい気象現象で、世界でも先行する研究が少なく、詳しいメカニズムは解明されていません。

海洋上の水蒸気をリアルタイムで観測(提供:気象庁)
この謎の解明に向け、気象庁は「線状降水帯の予測精度向上や、住民の皆様の早期避難につながる情報提供の取り組みの強化・加速化を進めている」と発表。大学など研究機関と連携し、2021年度には異例の規模となる257億円以上を投じて“線状降水帯の予測”に踏み出しました。これまで観測できなかった、海洋上の水蒸気をリアルタイムで計測するなどし、6月1日からは線状降水帯が発生する恐れがある場合、12時間前をめどに予測を発表するとしています。

近年増加している集中豪雨の発生頻度
しかし、この線状降水帯の予測には課題があります。それは、“4回の発表で1回程度”だという的中率の低さです。そもそも予測することが難しいとされてきた線状降水帯の予測をなぜ実施するかというと、近年、線状降水帯などでもたらされる「集中豪雨」が増加しているためです。1976年~2020年の45年間で、集中豪雨の発生率は約2.2倍に、7月に限定すると約3.8倍になっているのです。
豪雨が身近になる中で大きな課題と言えるのが“逃げ遅れ”の発生です。2018年7月の西日本豪雨では、避難勧告が約860万人に出されましたが、実際に避難した人はその約0.5%にあたる約4.2万人しかいませんでした。気象庁は線状降水帯の予測を発表することで、早期の避難行動を促したいという狙いがあります。

“12時間前発表”で対策が可能に
的中率はまだ低いのですが、大雨をもたらす線状降水帯の予測が12時間前にできる、というメリットもあります。予報が発表されたからと焦るのではなく、明るいうちから、大きな被害が多くなる夜までに備えることができることです。12時間前に気象庁が発表することで、報道番組などのメディアが情報を伝え、さらにそれを見た人が「避難経路の確認」や「防災グッズなどを備える」ということが可能になるのです。

精度向上目指す気象庁の方針
現在、線状降水帯予測は全国11の地域単位で発表されています。2024年からは都道府県単位に、2029年からは市町村単位での発表となり、精度はより高まっていくということです。しかし油断は禁物で、実際に線状降水帯が発生しているにもかかわらず、3回に2回は見逃してしまうケースもあるといいます。線状降水帯の予測が出ていないからといって油断せず、早めの避難や備えを心掛けてください。
◆取材・文/読売テレビ報道記者 小川典雅
(「かんさい情報ネットten.」 2022年6月1日放送)
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