【課題】5歳~11歳の子どもへのワクチン接種、「打つか、打たないか」保護者を悩ませ自治体を迷わせる“国の方針”の問題点とは?

 5歳から11歳の子どもへの新型コロナのワクチン接種。「打つか、打たないか」迷われている保護者も多いのではないでしょうか?このワクチン接種は、12歳以上のように接種を受けるよう努めなければならないとする「努力義務」にはなっていません。そんな国の方針に対して、「打ち手」を担う自治体もどんなメッセージを出すべきか悩んでいるといいます。今回は人口7万人の大阪府泉大津市で、子どもへのワクチン接種について国の方針に“疑問”を投げかけ、板挟みになっているという南出賢一市長(42)が出した“決断”の舞台裏を取材しました。

迷う「接種券」の送付…泉大津市の決断

大阪・泉大津市 南出賢一市長

(泉大津市 南出賢一市長)
「5歳から11歳のワクチン接種については正直、いくら調べても合理性が見当たらないということで、本当に大丈夫かという心配が非常に強い。」

 2月21日に行われた泉大津市議会。大阪・泉大津市の南出賢一市長(42)は、国が進めている新型コロナワクチン接種の対象年齢の引き下げに対し、国の方針に“異を唱える”強い覚悟を固めていました。

ワクチン接種担当の幹部職員たちと議論

 市長の部屋にやってきたのはワクチン接種を担当する幹部職員たち。5歳から11歳の子どもたちに対する接種の方針を固めるためです。

(泉大津市 健康子ども部健康づくり課 谷中由美課長)
「オミクロン株に対しての効果とエビデンスが十分ではないことと、そもそも重症化することのない小児に対して、ワクチン接種の意義が高齢者に比べて同様ではないこと。この2点を踏まえて、ワクチン接種に対して『接種券の一斉送付はしない』ということで決定したいと思っています。」

ワクチン接種の案内 “特に伝えたい部分”に線を引く

 その決定は、重症化を防ぎたい基礎疾患のある子どもたちの接種は優先して急ぐ一方で、健康に問題のない子どもたちには“極めて慎重な判断”を促した上で、希望者だけを募り、接種券を送付するというものでした。市長自身が筆を入れ、自分の言葉でその理由を示した案内の葉書を各家庭に送ることにしました。

(南出市長)
「『努力義務は適用されていません』ここは絶対に伝えないとダメですね。正しく伝わってくれたらいいんですけどね。決して油断しろというわけじゃないので…。」

有効性・安全性の根拠は“海外のデータ”

 ワクチン接種の「打ち手」として現場で責任を負う自治体にとっては、主に国や都道府県から提供されるデータが頼りです。しかし、有効性や安全性の根拠が海外のデータにあることも多く、確認が難しいこともしばしばです。自分たちの調査や情報収集で国の方針に異を唱えるのは、簡単なことではありません。

(南出市長)
「(海外のデータによると)非常に気になることがあって、生活に支障をきたす人が10%くらいいるんですよ。10人に1人が日常生活に支障をきたすというのはどういうこと?どう読んだらいいんですかね?」

 議論に議論を重ねて導き出した“重い決断”。南出市長が子どもたちのワクチン接種に強くこだわるのには訳がありました。

 南出市長は、国が接種の対象を12歳まで引き下げた際、接種を強く勧めることなどがないように、2021年10月、「こどもへの新型コロナウイルスワクチン接種推奨の中止と重症化対策の改善等を求める要望書」を、1万を超える署名を携えて政府と国会に申し入れをしました。そんな経緯を経て迎えた5歳までの接種対象の引き下げ…後藤茂之厚生労働相の国会答弁に耳を疑いました。

(後藤厚労相・2月9日「衆議院予算委員会」での答弁)
「オミクロン株については、5歳から11歳用の直接のデータは現時点では存在していないわけです。『成人と同様の効果があると推測されている』というのが科学的な正確な言葉でございます。」

 国は有効性と安全性の根拠を、2021年にアメリカからもたらされたデータにあるとしていますが、厚生労働省が明らかにした副反応の情報が、医療関係者の関心を集めています。それは、心臓の機能が低下する「心筋炎」と「心膜炎」の疑いがある事例の報告です。

心筋炎と心膜炎

 心筋炎と心膜炎は、心臓の筋肉や膜に炎症が起きる病気で、胸の痛みや心不全の原因になるケースもあります。厚生労働省は「これらの副反応は軽症の場合が多く、ワクチン接種のメリットの方が大きい」と説明しています。

ワクチン接種による心筋炎が疑われた報告頻度(厚生労働省HPより)

 しかし医療関係者が心配しているのは10代の男性に特に多くの発症が見られるという事実です。その理由は明らかになっておらず、これから接種対象となる11歳以下のデータもまだ、国内で収集されたものはありません。

(南出市長)
「心筋炎、心膜炎の数も時間と共に増えています。そこにスポットがあたることもなく、助けるための手だてや具体的な対策も全く示されていません。」

Q.提言もされていますが、国の姿勢に変化はありますか?
(南出市長)
「前向きな変化は正直感じることはできないと思っています。どちらかというと(国は)接種ありきのような情報発信が主になっているような気がしております。」

自治体を悩ませる「努力義務なし」

「“重症化予防”が子どもに必要か」揺れる判断

 このように自治体が判断に悩む原因の一つは、子どもが感染した場合の症状は“極めて軽いか無症状の場合が多い(日本小児科医会・2022年1月19日)”ということ。二つ目は、子どもへのワクチン接種の目的は“感染予防のためというよりは、重症化予防のためのワクチン”ということで、そもそも重症化することの少ない子どもたちに、重症化リスクを減らすワクチンを接種する必要があるのかというところです。

 基礎疾患のある子どもたちや、高齢者と同居している子どもたちなどへの接種は、やはり急ぐべきであるなど様々な個別の事情もある中、この二つの問題の中で自治体の判断が揺れ動いているのですが、今回の5歳から11歳のワクチン接種について、保護者の判断を難しくしているもう一つの原因が、国の方針として接種に対しての「努力義務」が予防接種法で課されていないということです。努力義務は、法的強制力はないものの、強く接種を呼び掛けるものですが、ワクチン接種のオミクロン株に対する有効性のデータが十分でないことがその理由で、「努力義務がない」という方針は、妊婦を除いて、これまでのワクチン接種の経緯の中では初めての事です。これらの問題点が絡み合い、各自治体での判断は難しいものになっています。

 今回取材した泉大津市の南出市長は「実態を学んで事実を検証することで、色々なことが判ってくればくるほど、国の方向性と板挟みになってしまう」と言い、他の自治体の首長を取材しても同じような悩みを抱えていて、国の方針と“板挟み”になることは共通した悩みとなっているのです。

ワクチン接種後の“副反応疑い”に広がる疑念…

 また、厚労省ワクチン分科会資料によると、ワクチン接種開始から厚労省が公表(2022年2月18日)したワクチン接種後に死亡した方は1450人と報告されていますが、その中でワクチンとの因果関係が認められたのは0件です。ワクチン接種の翌日に亡くなった事例もあることから、本当に因果関係がないのか疑念の声も上がっています。さらに、特に10代の男性の発症頻度が高い副反応である心筋炎・心膜炎についても医療現場から懸念の声が上がり、10代よりも幼い子どもたちの国内データがほぼない状況で、多くの自治体が判断を悩む要因になっています。

 私たちの取材に対し、厚労省の担当者は「最終的にワクチン接種との因果関係を突き詰めるのは難しい」と話しているように、ワクチン接種後の副反応や後遺症を訴えても、国の補償制度の適用を受けるためには、複雑な手続きや審査に時間がかかってしまいますし、最終的に認定されるまでには非常に厚い壁があるという現実もあります。ワクチン接種後に何かあった時に、国は助けてくれるのか、あくまでも自己責任になってしまうのか、特に幼い子どもたちに関わる今回の接種では保護者に対する、さらにきめ細かい説明とサポートが不可欠だと思います。

見分けがつきにくい「コロナ後遺症」の課題

泉大津市が実施する「コロナ後遺症改善プログラム」

 新型コロナの問題では、感染した後の体調不良などの後遺症疑い、ワクチン接種後の副反応疑い、さらにワクチンを打っていても感染して、調子が良くないというような人が増えていて、死亡事例にまで至らなくても日常生活での問題が指摘されています。このため泉大津市では独自に、新型コロナ罹患後やワクチン接種後に体調不良が続くなど様々な経緯で後遺症に悩む方々が、健康を取り戻すための取り組みをしています。

 市が補助金を出して行っている「コロナ後遺症改善プログラム」には、医師だけではなく鍼灸師など様々な分野の専門家が参加しています。取材をした日にプログラムを受けに来ていた50代の女性は、2021年8月にコロナにかかり半年ほど経過しても嗅覚や味覚の異常に悩まされていました。この女性のように、新型コロナ感染の後遺症で悩む方の多くは、身体の問題だけではなく、心のバランスが崩れるなど精神的な問題も出てきていると、医師は話しています。

コロナ後遺症改善プログラムに参加する、齊藤素子医師

(コロナ後遺症改善プログラムに参加 齊藤素子医師)
「後遺症はいろいろな症状があります。精神的なものなのか、原因があって症状が出ているのか、すごく見分けがつきにくいです。軽い症状だと“気のせい”“もっと頑張れば”と言われてしまうこともあるかもしれないので、そういったことがご本人にとっては小さなことでも、ものすごく“大きなストレス”になっているのではないかと思います。そのあたりの心理面でのサポートを、もう少しきめ細やかにすると、症状自体も楽になる方もいるのではないかと思います。」

  取材を通じて、新型コロナの後遺症には社会的にも様々な問題があることが分かってきました。専門医や専門の病院がまだほとんどないこと、症状を訴えてもたらいまわしになるケースが多いこと、診断基準がまだ確立していないため、病名がはっきりせず、治療が十分に受けられていない方々も多いと思います。そして、コロナ後遺症で困っている方々に対する休業補償の創設も急ぐ必要があります。感染者数急増の裏側で、多くの課題が残されています。

◆取材・文/読売テレビ報道局 解説委員 山川友基

(読売テレビ 「かんさい情報ネットten.」 2022年2月23日放送)

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