【特集】「苦しい生活の中で娘に手を…」かつて我が子を虐待した女性が後悔を胸に行う親子支援 『僕たちを助けてくれてありがとう』“繋がり”の活動に光が見えた瞬間

 大阪府摂津市で、3歳の男の子が熱湯を浴びせられ、死亡した事件から1年。幼い命を守るためには何ができるのか。苦しむ親や子どもに寄り添う、ある女性の活動から見えてきた、求められる社会の在り方とはー。

 近年でも後を絶たない、子どもが犠牲となる事件。2022年6月には、大阪府富田林市で当時・2歳の小野優陽(おの・ゆうは)ちゃんが自宅に放置され、熱中症で亡くなりました。優陽ちゃんの祖母らは、事件の2日前からUSJ近くのホテルに宿泊し、一度も帰っておらず、保護責任者遺棄致死などの罪に問われています。また9月には、大阪府枚方市の自宅で、当時・2歳の女の子の両足を掴んで逆さ吊りにして振り回し、テーブルに顔をぶつけて口の中を切るケガをさせたとして、24歳の父親が逮捕されています。

 2021年8月には、新村桜利斗(にいむら・おりと)ちゃんが、わずか3歳でこの世を去りました。母親の当時の交際相手が、桜利斗ちゃんに熱湯を浴びせ、殺害した罪に問われています。当時、桜利斗ちゃんが暮らしていた大阪府摂津市には、保育所からケガの情報が何度も寄せられていましたが、深刻に受け止めていませんでした。市はその後、家庭児童相談課の職員がこれまで個別に一人で抱えていた家庭のケースを、4人のチームで協議することにするなど、新たな取り組みが始まっています。しかしケース数に対し職員数があまりにも少なすぎるなど、課題が山積の“虐待対応”は、行政だけに頼らない仕組み作りが求められています。

我が子を虐待した過去、後悔から決意した支援活動

困っている親子の支援活動を行う辻由起子さん

 大阪府茨木市に住む辻由起子さんは、支援を求める親や子どもに必要な物資を届けるなどのボランティア活動を、10年以上続けています。

Q.支援はSNSで、直接やり取りするのですか?
「そうですね、LINEで。お子さんの大きさによっても使うものが変わるので、選んで持って行っています。その物資も、『テレビや新聞を見た』とか、『SNS見ました』と言って、会ったこともない見ず知らずの方が送ってくださっています」(辻由起子さん)

 SOSはひっきりなしに届くと言います。

Q.配達は、毎日ではないですよね?
「ほぼ毎日、必ずどこかには走っているかな」(辻さん)

18歳で結婚、幸せな結婚生活を送るはずだったが…

 活動を始めたきっかけは、自身の子育ての苦い経験でした。高校卒業後、アルバイト先で出会った先輩と18歳で結婚し、幸せな結婚生活を送るはずでした。

「勉強しかしてこなかったので…何も知らなさ過ぎたから、そのまま元夫について行ったら妊娠。当然、親は『結婚するなら家に帰ってこないでください』って」(辻さん)

 待っていたのは、働かない元夫による暴力と、家計を支えるため昼夜問わずアルバイトに明け暮れる生活でした。その後、19歳で長女を出産しましたが、苦しい日々が続くうちに手をあげるようになりました。その度、彼女は後悔に苛まれたと言います。

娘に手をあげてしまう日々

「出産してわが子を抱いて、初めて感じた気持ちが“不安”しかなかったんですよ。可愛いと1ミリも思えなくて。私1人で解決できないことばかりだったので」(辻さん)

Q.自身の境遇が、今の活動に繋がっているのですか?
「100%そうです。当時やってもらえなかったことを、今やっています」(辻さん)

 23歳で離婚すると、通信制の大学で児童福祉を一から学び、同じ境遇の親や子どもを支援するようになりました。

必要な支援物資を届ける活動

 そんな辻さんが訪ねたのは、2人の子どもを育てる母親です。持ってきた白米を手渡すと…

「ありがとうございます。ありがたくいただきます」(2児の母親)

 母親の夫は、心のバランスを崩し働けなくなったのだと言います。

「自分がしんどいということに、気が付いていない人がいる。絶対誰かに助けてと言わないと、弱いものに、子どもに、負の連鎖というか、私の感情が向かってしまうから、そこは絶対してはいけないと思っていたので…」(2児の母親)

大切なのは“繋がり” 自身の経験を全国に

小中学校の教員向けに研修

 辻さんは虐待を防ぐため、自身の経験を広めようと全国を駆け回っています。この日は小中学校の教員向けに、子どもの貧困など、虐待が起きる背景について研修を行いました。

「結局、環境次第なんです。環境がうまく整っていなかったら、誰だって同じようなことになってしまう恐れがある。まずは親御さんの家庭環境をしっかりと支えていこう、というのを大事しています」(辻さん)

 辻さんが大切にしているのは、支援者同士の繋がりです。

必要なのは支援者同士の“繋がり”

「どこかの一機関でできることなんてないですし、サポートする側が繋がって仲良くなっていないのに、誰かを支えるのは絶対無理じゃないですか。組織とか法律とかじゃなくて、人と人として仲良くなって、信頼感で動いていこうということを広げていっています」(辻さん)

 研修を受けた小学校の教諭からは、

「教育現場だけで全ての観点からフォローができなくなったときに、教育現場からはこの観点でフォローする、他の団体からは『お母さんこうしないといけないよ』という指導ができる、という役割分担がないと、どこか1つだけ担えることは少ないし、そこだけにこだわってはいけないと思いました」(小学校の教諭)

「助けてくれてありがとう」届けられた感謝の言葉

2児のシングルマザーの元を30回以上訪問

「ちょっと待ってや。はい、お米」(辻さん)
「ありがとう」(2児のシングルマザー)
「元気でよかった。タオル何枚ぐらいいる?」(辻さん)

 この日、辻さんが訪ねたのは、2人の子どもを育てるシングルマザー。夫と離婚し、経済的に困窮していた1年前、辻さんに出会いました。「子どもと一緒に死ぬことも頭に浮かんだ」という女性の元を、辻さんは30回以上に渡り訪問してきました。

「自分が自立したときに『こうしよう』という風に、辻さんに出会って前向きに考えられるようになった。人を信用できる気持ちが私にもあったんやって確信できて、どんどん私も変わっていって、今に至るのではないかと思います」(2児のシングルマザー)

 辻さんは、帰り際に手紙を受け取りました。女性の息子が辻さん宛てに書いたものでした。

『辻さんに教えてもらった勉強会、とても楽しかったです』

「もう、いきなり泣ける…うれしいな」(辻さん)

辻さんへの感謝が綴られた手紙

『辻さんと初めて会ったこと僕は覚えています。今でも。僕の大好きなご飯を、おなか一杯食べさせてくれました。僕は最初、何が何だかわからなかったけど、後でお母さんから聞いて分かりました。本当、あの日は本当に本当にうれしかったです。お母さん、ずっと泣いていたので、元気もなかったので、僕たちの家族を助けてくれてありがとう。僕も中学になっていろいろなことが理解できて、お父さん僕にはいないけど僕には寂しくないです。なぜならお母さんや弟、辻さんたちみんながいるからです。僕はみんなが大好きで辻さんが好きです。これからも僕たち家族のことを守ってください。僕が大人になるまでは、お母さんのことをよろしくお願いします』

手紙を読み、思わず涙が…


「はぁー泣ける。悔いなし。これを次の世代の子どもたちが感じてくれているから、社会は変わるよ」(辻さん)

(「かんさい情報ネットten.」 2022年8月30日放送)

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