yamaはなぜ“仮面アーティスト”になったのか?〈後篇〉折れた心を救った仲間の言葉、アー担が明かす発掘秘話と二人三脚で歩んだ挑戦の日々

 顔を出さないアーティストとして活躍する歌手のyamaさん。ロングインタビュー前篇では、デビューに至るまでのトラウマや不安や葛藤、仮面を着ける意味、さらに、yamaさんを大ヒットアーティストに導いた仕掛け人、ソニー・ミュージックレーベルズの藤原慎太郎さんとの出会いなど、これまで明かしてこなかった本音を赤裸々に語ってくれました。
 
 この後篇では、yamaさんが現在に至るまでの心の変化に迫ると共に、仕掛け人・藤原さんも交え、yamaさんの発掘秘話やデビューまでの道のり、藤原さんから見たyamaさんの変化と今後について、お聞きしました。

心が折れ藤原氏と衝突…気付いた本当の気持ち

(左)ソニー・ミュージックレーベルズ 藤原慎太郎さん (右)yamaさん

――藤原さんとの衝突とは?
yama:ライブが苦手と言いつつ態度に出さないようにしていても、やっぱり出ちゃうので、ウジウジしてしまったりとか…。全国ツアーの最後の、ツアーファイナルをDVD化しようと思って撮影を入れていたんですけど、その大事なときに、自分が今までやってきた最高のライブができなくて、心がポッキリ折れちゃって…。そこから、今まで以上にもぬけの殻になってしまって、1か月くらい口をきかないときがありました。

 自分が悪いのは分かっていたので、慎太郎さんと話したら120個くらいダメ出しされるんだろうな、と思って、悪い所と向き合いたくなくて、あまり話しかけないようにしていました。慎太郎さんも慎太郎さんで、怒ってるから話さないし、必要最低限の会話しかしない、みたいな感じが1か月以上続いて…。そんなときに、慎太郎さんが他で担当をしている「ALI」というバンドのLEOさん(今村怜央)とか、LEOさんの奥さんの萩花さん(元E-girls・藤井萩花)から、「ホントにそれでいいの?自分で音楽の道を選んで、ステージに立っていることは当たり前じゃないと思うよ」って声をかけられて、そこで「あぁ、そうだよな」と思ったんです。

 今まで、過去のトラウマはあったけど、それでも音楽はやりたくて、家で一人で宅禄して、カバーをアップロードして、それを見つけてもらってうれしくて、オリジナル曲もリリースして、嫌々と言いつつもやっぱり音楽をやりたいから上京してきて、っていうこれまでの道筋は、全部自分が音楽をやりたいから選んできたことじゃないか、ってようやく我に返って。そこから、もっと自分が逃げていたことに向き合って、ライブをやっていこうと思ったし、制作物に対しても妥協がないように、限られた時間をうまく使って…まぁ時間の使い方下手なんですけど(笑)、下手なりに意識をして、ちゃんと向き合っていこうと思ってから、うまくいき始めました。それが年明け前くらいです。今年に入ってからようやく、っていう感じです。

yama:慎太郎さんに「今まで二人三脚で歩んできたから、これからも一緒に頑張ろう。今はもうたくさんのスタッフが増えているから、その人たちを大事にして、お前がクルーを引っ張っていく座長のような気持ちで頑張れ」って言われたので、「アーティストとしての自覚をもってやらなきゃな」って思って意識するようになってからは、結構うまくいくようになってきました。昔は、ライブで「今日良くなかった、うまくいかなかった」っていうことがあったら、めちゃくちゃ落ち込んでしばらくウジウジしていたんですけど、それもなくなって、「よし切り替えよう、次はこうしよう」みたいな、気持ちの切り替えもうまくできるようになってきて…いい感じですね、今は。

「この子に声かけなきゃダメだ」藤原氏が出会ったyama

出会いのキッカケはYouTube

藤原:その当時、別のアーティストを担当していて、家に帰ってからYouTubeで新人を探す作業をやっていたんです。その中で、当時は「ずとまよ」や「ヨルシカ」とかのネットアーティストが出てきた頃で、こういうアーティストが今売れているんだなと思いながら探していたら、たまたまyamaがおすすめに出てきて、聴いたらめちゃめちゃヤバいなと。当時ちょっと仕事で病んでいたので(笑)、yamaの歌声に毎晩癒されて…夜中、辛いときにずっと聞いていたんです。それが、yamaがカバーしていた「猫アレルギー」さんの『優しい人』で、その曲でyamaの歌声を気に入ったんです。その後、『bin』という曲が出て、『bin』もいい曲だな、R&Bぽいのもすごく映えるんだな、と思って聴いていて、それから「煮ル果実」さんの『ヲズワルド』のカバーを聴いたときに、「あっ、もうこの子に声をかけなきゃダメだな」と思って。それで…夜中だよね?DMしたの?

yama:そうですね、めちゃくちゃ怪しんでいましたけど(笑)

藤原:ジャンルをあんまり自分で固定していなくて、いろんなタイプの曲を歌っていて、結構歌いこなせるんだって思って、でも根底ではR&Bが好きなんだろうな、と感じていました。

yama:カバーするときも、毎回同じ曲調を選んでいなくて、いろんな楽曲に挑戦したいっていうのもあったので、選曲も気を付けていましたね。

――yamaさんをデビューさせるときに、「顔出さないで売っていこう」というのが根本にあったのですか?
藤原:出したくないと言われたんで、それで考えるしかないじゃないですか(笑)。

――藤原さんは、出したい気持ちはあったのですか?
藤原:いや、そこは本人の意思に任せようと思いました。本人から「こういう活動をしたい、人生こういう目標を持っている」っていうのを全部聞いて、それに合わせて設計して、「じゃあ、この先5年後10年後こうなっていたいなら、今これをやらなきゃいけないよ」という事を事前に共有して、走り出して。あとはもう、現場で何かあったら相談しながら、みたいな感じです。

yamaも驚く藤原氏の“代弁”

「なんで分かるんだろう?って思ってました(笑)」

藤原:状況としては、ようやくスタートラインに立ったところ、ですかね。だから今から、yamaが自分をどうしていきたいのか、どう表現したいか、というのがどんどん出てくると思うので、これまでは僕がある程度、こいつの気持ちを汲み取って、「お前はこうしたいんだよね」ということでプランニングをしてきたんですけど、ここ最近は自分の意思でやってくれているので、それをちゃんとフォローできるような体制を作っていく感じです。

yama:確かに去年は、「こうしたいんだけど」っていう気持ちはありつつも、言えないというか言わなかったので、「こうだよな」って汲み取ってもらって、なんとか形にしてもらっていた感じですね。

藤原:普段ずっと2人で動いていたから、「多分言えないけど、こいつはこう思ってるんだろうな」っていうのが分かるわけですよ。それを代弁する役割でいましたね。

yama:そうなんですよね、本当にすごいんです。なんで分かるんだろう?って思ってました(笑)。MCをやり始めたときに、自分が本当に型にハマるタイプなので、台本を書いたんです。大阪だったかな…「豚まんのことに触れる」とかいろいろ考えてやって、そしたら「全然だめだよ」って言われて。「俺だったらこういうMCをするよ」って見せられたMCがあったんですけど、それがもう「すげぇな」って思って。「そうそう、こう思ってる」ってことが書いてあって、自分自身のことなのにそれで簡単に超えられたんです。マジですごいなと思いましたね、そのときは。そこから台本を書かずに、一旦型にはまらないように気を付けながら、自分の思ってることを書こうと思って、やっています。

藤原氏のこだわり「口は絶対に開けといて」

仮面を見て「これだ!とはならなかった(笑)」

――顔を出さないアーティストは他にもいらっしゃいますが、そのような人たちのことはどう思っていますか?
藤原:テレビ露出は大変だなぁと思います(笑)。でも基本的に、そういうアノニマスアーティスト的な人たちは、今はもう普通なので。あんまり特に特別には思わないですね。ただ、yamaに関して言うと、先に“半仮面”をやっていてよかったなぁと思います。先に半仮面のアーティストがいらっしゃったら、やりづらいじゃないですか。

――半仮面でやっていく、と決まったときはどう思いましたか?
藤原:いや、僕が「口は絶対に開けといて」って言ったんです。過去に、口を隠しているアーティストで苦労したことがあったので、口は絶対に開けたデザインにしようと。

――仮面が完成したときに、「これだ!」と思いましたか?
藤原:まぁ…「これだ!」とは、ならなかったなぁ(笑)。

yama:「大丈夫かな?」っていう感じでしたね。

藤原:この仮面自体が、「THE FIRST TAKE」で初披露だったので、そのときは仮面を作った快歩くんから送られてくるまでは、結構ドキドキしていましたね。で、仮面だけ見ると、結構いかついんですよ。だから「大丈夫かな…」と思ったんですけど、1回装着をして、フードを被るっていうのもスタイリストの服部くんといろいろ試行錯誤をしながら決まって、で、完成したら「あ、いけるかなぁ…」みたいな。「あとはちょっと世の反響を見よう」みたいな感じでした。

yama:そうですね、ドキドキだったなぁ。「なんだこいつは!?」って言われるんじゃないかと思っていたので、案外受け入れられてよかったなと思います。フェスとかでも、顔を出していないアーティストは中々出るのが難しいと思うんですけど、めちゃくちゃ呼んでいただけるので、「あぁ嬉しい」と思いますし、そこはこのスタイルで良かったなと思います。こういうインタビューとかでも露出しやすいですし、照明が難しい野外フェスでも対応ができるので。

“挙動不審”から“落ち着いたトーン”に yamaの変化

「最初はキツかったなぁ」

――yamaさんは「仮面を着けているときと外したときでは違う」とおっしゃっていましたが、藤原さんから見ても違うと思いますか?
藤原さん:やっぱり、アーティストモードに入るんだと思います。話し方も全然違うし、声のトーンも違うし。

――仮面を外したときは、話しやすいですか?
藤原:もう全然話せます。まぁでも、最初がしゃべりづらすぎたからなぁ。

yama:しゃべりやすくはないと思いますよ?

藤原:今はしゃべりやすいよ。

yama:あ、本当ですか?

藤原:最初はキツかったなぁ。

yama:あんまり覚えていないんですけど、どんな感じでした?

藤原:え、挙動不審(笑)。人に慣れていないんだなと思って、だからあえて色んな人に会わせたんですよ。

yama:そうですね、こっちに来てからめちゃくちゃ色んな人に会いました。

藤原:絶対に行きたくないだろうなと思うご飯会にも連れて行ったり。

――それは嫌でした?
yama:いやいや、全然!人とご飯を食べるのは好きなので、ついて行ってたんです。寂しいので、上京して誰も知らないし、とにかくコミュニティに入りたい気持ちはあったので、「行きます!」って言って行ってましたね。かと言って流ちょうに「自分はこういうことをしてて」とか、コミュニケーションをとれるわけでもないので、ただいるだけなんですけど(笑)。でもだんだん慣れていきましたね。

――今言われて、「そういうことだったのか」と思いました?
yama:まぁでも、結構言われていたので。スタイリストの服部さんと会うときに、会ってすぐに「全然普通じゃん」って言われて、「何だろう?」と思ったら慎太郎さんが事前に「マジでコミュ障だから。本当に話せないから。マジでヤバいから頼むよ」って言っていたらしくて(笑)。自分は、ニコニコはもちろんできるので、ニコニコしていたら「全然普通じゃん」って言われたのを覚えています。

藤原:ハードルを下げていたのよ(笑)。

yama:ホントに、ハードルを事前に下げてもらった中で、たくさんの人に会わせてもらっていましたね。それでだんだんと慣れていって、徐々に自分が落ち着いたトーンでオドオドすることなく話せるようになっていきましたね。

「今年のライブを見て欲しい」自分と向き合い、手にした“自信”

「ライブ、楽しみましょう!」

――yamaさんが今のような状態になってくれて良かったと思いますか?
藤原:めちゃめちゃ良かったです。マインドが変わったのが一番嬉しかったなぁ。やっぱりどこか逃げ道を探すタイプなんですけど、それが最近は自分から逃げ道を断つようになったというか、逃げ道のことを考えなくなってきたから、いろんなことがすごい勢いで成長をしているというか、強さを感じます。だから、本当に去年は不甲斐ない全国ツアーだったんですけど…

yama:ごめんなさい!

藤原:だから今年のツアーは、ぜひ見て欲しいね。

yama:本当に見て欲しい。お客さんにも、もしかしたら去年見に来てくれて「もう2回目はいいかな」って思った人がいると思うんですけど、今年見に来てほしいです。今年を見てから、次来るか来ないかを決めて欲しいです。

――自信があふれていますね。
yama:そう(笑)。去年は、「ライブ」というより「ショー」っていう感じだったんです、感覚が。ジャッジされてるというか、ピアノ発表会みたいに「採点される」くらいの感覚でいたんです。だけど、そうじゃないんだなと思って。お客さんは、単純にその空間を楽しみたくて、自分の音楽を楽しみたくて来てるんだから、まずその感覚を変えなきゃなと思って。それで、今までは目をつぶっていたりしたんですけど、最近は、お客さんの顔を見たりとか、指をさしてみたり、合図をしてみたり、コミュニケーションをとりたいなと思いながらライブをやっているので、そういった意味でも、今年はぜひ来て欲しいなと思ってます。楽しみましょう!という気持ちでやってます。

――これからも二人三脚でやっていきますか?
藤原:まぁでも、僕は補助輪的な立ち位置だったので。もうyamaは自走できるし、外れかけていると思います。

yama:ヤバいヤバい。それはそれで困るんですよね(笑)。いつも「死なないでくださいね」ってめちゃくちゃ言ってるんです(笑)。お酒がすごい好きなので…

藤原:好きではない。

yama:うそでしょ?

藤原:飲むだけだから。

yama:いや、それ好きでしょ!(笑)本当にめちゃくちゃお酒飲むし、タバコも吸うし、こっちから見たら不健康に見えるので、「本当に死なないでくださいね」っていつも言ってます。

藤原:はい、頑張ります(笑)

yama:それだけお願いします。困ります(笑)

(「かんさい情報ネットten.」 2022年8月11日放送)

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