【独自解説】韓国で『親日』は悪い意味!?尹大統領誕生で期待の日韓関係改善、しかし早々に“日本批判”始まる可能性アリ…いったいなぜ?

 5月10日に韓国の新大統領の就任式が行われ、尹錫悦(ユン・ソンニョル)新大統領が誕生しました。「尹新大統領は日本との関係を重視している」と伝えられていることもあり、この10年で完全に行き詰まり“史上最悪”とも言われている日韓関係がようやく動き出すのではないかと、日韓両国の関係者が期待と不安を持って、この就任式を見たことだと思います。日本と韓国の間にある非常に特殊な歴史問題を解決できるのか?この第一歩をしっかりと踏み出せるかどうか?が、関係改善の大きなテーマになりますが、ただしそこには、“歴史の呪縛”と言われる日韓特有の問題があるのです。

反日の歴史の裏にある『親日』という言葉

就任式での尹新大統領の発言

 全く政治経験のない尹新大統領ですが、時間に余裕はありません。必要なのは“スピード感”です。5月10日の就任式で尹新大統領は、「韓国は“度を越した二極化”と社会の対立が発展の足かせとなっている」と率直に言っています。これは韓国の社会の中に様々な対立があることを意味しています。その中の一つが、日本と韓国の対立になります。

実は意味が異なる『親日』

 私も25年以上韓国を取材していますが、特に日韓関係が悪化していくときに直面する問題が、『親日』という言葉です。字面を見ると「日本に親しみを持っている人たち」のことかと思うのですが、実は韓国の中では、180度違う意味として使われています。それは、「日本が朝鮮半島を統治していた時代に、日本側に協力していた韓国人とその子孫たち」を揶揄する言葉なのです。

批判の対象者を掲載「親日人名辞典」

 これが、韓国の社会の中でどれくらい深刻な問題として今も続いているのか?その象徴的なものが、「親日人名辞典」という非常に分厚い辞典です。これは、日本統治時代に日本に協力したことから批判の対象になっている人達の、一人一人の詳しいプロフィールが掲載されているものです。韓国の民間団体が作っていて、まさに“怨念が詰まっている”とも言えるような、とても重たい本です。こうしたものが出回るほど、韓国内では『親日』に対しての対立構図があるのです。さらに、日韓が外交問題で対立したときにも『親日』の話が表面化し、日本に対しての批判の声を大きくしてしまいます。

『親日』と言われる朴正煕元大統領

 では、いつからこのような言葉が出てきたのでしょうか?その出発点として注目したいのが、韓国で今でも一番人気があると言われている朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領。韓国の経済成長の立役者であり、日本との国交樹立を果たした人物です。実はこの人も「親日人名辞典」の中に名前が載っていて、戦時中に旧日本軍人だったという背景を持っています。戦後、この朴元大統領などの軍事政権や財閥企業などが「親日」の流れをくむということで、韓国社会の分断と、政治対立の原因のひとつとして、今もくすぶり続けているのです。

“10年間の空白”を生んだ二人の大統領

 この対立が、韓国の大統領選挙にも大きな影響が出てくるのですが、この10年間、日韓は約束していた「シャトル外交」が途絶え、両国の首脳が行き来できない状況が続きました。その象徴的な2人の大統領が、朴槿恵(パク・クネ)元大統領と文在寅(ムン・ジェイン)前大統領です。朴槿恵元大統領は朴正煕元大統領の娘で、韓国初の女性の大統領です。彼女は日本との関係が近しい人なのですが、父親が『親日』と言われていたため、自分も『親日』のレッテルを張られるのを心配して、日本に対して非常に厳しい態度で接しました。「加害者と被害者という歴史的立場は、千年経っても変わらない」と言いながら政権運営をしていたのです。

ただ終盤の2015年には、日本との間でいわゆる「慰安婦合意」を結び、日韓関係を改善しようという動きもありました。しかしこのあと、政権交代で大統領になったのが、文在寅前大統領です。

文大統領(当時)が「日韓請求権協定」にも疑義

 文前大統領は、「一度合意したとしても、過去は全部過ぎ去ったと終わりにできない」と発言し、この「慰安婦合意」を事実上使い物にならないようにしてしまいました。この二人の10年間で、『親日』という歴史の呪縛が日韓関係を悪化させてしまいました。さらに文前大統領は、朴正煕元大統領の功績ともいえる、日本と韓国が国交を樹立した1965年の「日韓請求権協定」にも疑義を唱えます。この協定で「完全かつ最終的に解決した」とされる戦時中の徴用工への補償に対し、韓国の裁判所が日本政府や日本企業に賠償責任あり、という判決を出したことで、日韓関係は完全に行き詰ってしまいました。

期待される関係改善、ポイントは“支持率の誘惑”

歴代の大統領がたどる“反日”への道

 今後の日韓関係について、尹新大統領は改善を求めていますが、政治経験が全くありませんので、今後どのような動きをするのか分かりません。ただ、歴代大統領が最も気にしていたのが“支持率の誘惑”です。ここにも『親日』『日本批判』が、密接に関わってきます。

 韓国の大統領にとって、「日本批判は批判されない」。つまり日本批判で支持率をアップさせる、非常に使いやすい手段として使ってきました。韓国の大統領は1期5年ですが、まず政権出発時には大体どの大統領も、日本との関係は改善していこうとします。しかし、任期の半分を超え終わりが見えてくると、次に大統領を狙う人たちが動き出します。すると現職の大統領は、求心力を失い存在感も低下するので、「何とか支持率を上げなければならない」となって、『日本批判』の誘惑にかられるようになるのです。そうなると日本との外交は行き詰まり、関係も悪化してしまいます。韓国の政治は、この構図を繰り返してきましたので、日本としては尹新大統領に期待と不安の両方のまなざしを向けています。

尹新大統領の厳しい状況

 しかも尹新大統領は、対立候補と「0.73ポイント」という拮抗した状況で勝利した大統領です。言い換えれば、反対している人も大勢いる大統領なのです。そして国会でも少数与党ですので、なかなか思うような国会運営ができません。政権基盤が弱いということは、もしかしたら任期の半分を待たずに国内政治で行き詰まり、早い段階で『日本批判』が始まる可能性があるということです。そのため、日韓の関係改善のためには“スピード感”が必要になってくるわけです。大統領就任式に出席した林芳正外相が「日韓関係の改善は待ったなしだ」と言っているのは、尹新大統領に対する期待と不安の裏返しという見方ができると思います。

“歴史の呪縛”は解けるのか…

 これから国民の支持を集められるかどうかが「生命線」になる尹新大統領ですが、中国や北朝鮮との問題など、次々と難しい問題が迫ってきます。全てに対して“スピード感”が求められると同時に、特に日韓関係については、“歴史の呪縛”をどのようにして振り払うのか、という“手腕”に注目です。


◆取材・文/読売テレビ報道局 解説委員 山川友基

(「かんさい情報ネットten.」2022年5月11日放送)

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