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#125「ブラジル/サンパウロ」 10月31日(日) 午前10:25〜10:55


 今回の配達先はブラジルのサンパウロ。ここで伝説の巨大魚・ピラルクの養殖に取り組む鴻池龍朗さん(58)と、東京に住む姉の茂子さん(60)をつなぐ。介護施設に入っている85才の母の世話をする茂子さんは「母は弟のことを一番心配している。母に弟の様子を知らせたい」と話す。

 1億年もの間、その姿を変えることなく生き抜いてきたピラルクは、ウロコをもつ淡水魚の中では世界最大といわれる。龍朗さんは、稚魚からたった1年で10㎏の成魚に成長するピラルクに魅せられ、"食用"として養殖しているのだ。長さ14m、幅5mの小さな池に、巨大なピラルクがなんと300匹。水面に浮上して空気呼吸できる特殊な仕組みを持つピラルクは、池に酸素供給をしなくても養殖が可能なのだ。「ピラルクのそんな素晴らしい力に夢中になった」と、龍朗さんはその魅力を語る。

 龍朗さんがブラジルに来たのは33年前。大学で養殖の勉強をし、就職した商社では、スッポン養殖のためブラジルに派遣された。その後、龍朗さんは独立し、さまざまな魚の養殖に挑戦するも、失敗の連続。諦めかけていた頃、ピラルクと出会い、以来14年間、研究を続けてきた。

 当初、ブラジルではピラルクを食べる習慣はほとんどなく、食用として知られるようになったのはごく最近のこと。まだまだピラルクの買い手は少なく、経済的には苦しい状態で、龍朗さんの家族の生活は、仕事をもつ妻の和美さんの収入に頼り切っているという。だが和美さんは、龍朗さんがピラルクの養殖にすべてをかけ、家族との時間すらなかなか持てないことにも、「普通の人は夢を追えないけど、彼は追える。いいんじゃないですか?」と大らかに構えている。

そんなピラルクも、数年前からはタイやマグロと並ぶ高級魚として高級レストランなどに出荷できるようになり、養殖事業にもようやく見通しが立ってきた。現在は、長年の研究の集大成ともいえる新しい肥育池を建設中で、夢の実現まであと一歩の所まで来た。だが龍朗さんが気になるのは、2年前に介護施設に入った母と、その世話をまかせっきりの姉のこと。2人のためにも龍朗さんは「今度こそ養殖を成功させたい」と強く願っている。その固い決意の陰には、父の言葉があった。「"龍朗らしく生きろ。親のことなんか考えるんじゃない。やり出したらしっかりやれ"といつも言われていた。自分は養殖をやるためにこのブラジルにいるんです」と、龍朗さんは語る。

そんな龍朗さんに、姉から届いたのは1枚のDVD。そこには介護施設に入所してから、なかなか連絡が取れなくなった母の姿が映っていた。龍朗さんに向け「皆に迷惑かけているような気がするけど…その人たちに報いなければいけないよ」と語りかける母。龍朗さんは「本当に迷惑をかけてばかりで…人のために何かをしないと報われないですよね」と母の言葉を噛みしめる。そして姉からの手紙には「あなたにはあなたの人生がある。日本の事は心配しないで、思う存分やりたいことをやり遂げてください」と綴られていた。龍朗さんは姉の想いに涙を流し「もう少しです。俺の作品を作ってそっちへ行きます。もうちょっとです。待っててください」と、姉と母に呼びかける。

そして今回、ブラジルでの龍朗さんの姿を映したVTRを介護施設で見た母は「変っていませんね。力をもらいました」と元気な息子の姿に安心する。