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#115「アルメニア」 8月8日(日) 午前10:25〜10:55


 今回のお届け先はアジアとヨーロッパに挟まれた小国アルメニア。ここで日本語教師として奮闘する長谷川有彦さん(36)と、兵庫県相生市に住む父・和正さん(67)、母・玲子さん(67)をつなぐ。大手企業を退職し、世界を放浪後、アルメニアに行くと告げられたときには反対したという父。「生活の保証をちゃんと作ってから行くならいいが…。親としては当然の心配です」と、有彦さんの決断を、父は理解できなかったようだ。

 1991年、ソビエト連邦解体で独立したアルメニアは、その後も周辺諸国と紛争が続いた。近年ようやく落ち着きを取り戻し、近代化を進めているが、いまだ経済状況はよくない。そんなアルメニアのエレバン人文大学で、1年前から非常勤講師として日本語を教える有彦さん。アルメニアはここ5年ほどで急激に諸外国の文化が入ってきており、日本の映画や漫画、空手などの人気も高いという。

だがこの国に日本大使館はなく、日本の情報が少ないのが現状だ。それだけに未知の国・日本に興味を持つ人は多く、将来のビジネスチャンスにも繋がると日本語を学ぶ生徒が年々増えているという。有彦さんは「授業で少しでも日本文化を伝えたい」と、書道なども取り入れ、生徒たちからは「授業がとても面白く、一番好きな先生」と人気も高い。学長も「長谷川先生は日本とアルメニア、2つの民族をつなげるとても重要な仕事をしてくれている」と評価している。

 だが有彦さんが1回の授業でもらえる賃金は日本円で250円ほど。自宅で個人授業もしているが、それでも生活するには足りないという。だがその現実を当初、両親には伝えていなかった。「政府派遣の仕事だと嘘をついてアルメニアに来た。給料も必要な分をもらっていると伝えた。両親に心配かけたくなかったから…」と有彦さんは振り返る。

 有名大学を出て、大手企業に就職した有彦さんは、競争ばかりの人間関係に疲れ、25歳で退職。その後8年間で世界80ヵ国以上を放浪した。かつては人間嫌いだったという有彦さんだが、旅でいろいろな人と出会ううちに人間が好きになっていったという。そんな中、アルメニアで日本語を苦労して学ぶ学生たちに出会い、衝撃を受けた。「大使館も日本の会社もなく、日本人もほとんどいないこの国で、日本人に会えたことを本当に喜んでくれた。"ここで勉強をしている学生のために何かしたい"と思うようになったんです」。日本語を学びたいと切望するアルメニアの人たちが待ち望んだ日本語教師…それが有彦さんなのだ。

 「将来のことや安定、収入を考えたら僕はここに来ていない。後悔はしていないし、何より今は幸せ。ここでできる限り頑張りたい。(両親には)分かってほしいというより、見守ってほしい」と話す有彦さん。だが"男は安定した職について家庭を築き、守っていくものだ"という考えの父には、自分の生き方を理解してもらえなかったとも感じている。「父は父で自分の生き方にプライドを持っているからだと思う。それは尊敬している。でも僕は違う道で、父のように自分の生き方にプライドを持てるような人間になりたい」と、有彦さんは父への思いを明かす。

「"後悔はない、幸せ"という息子の言葉を聞いて安心した」という父。そんな父から有彦さんへのお届け物は、父の座右の銘。「今日一日、明日につながる仕事ができたか。今日一日、明日につながる人付き合いができたか。」というその言葉に、"後悔のない、将来につながるいい仕事をしてほしい"という父の想いが込められていた。有彦さんは「私にとっても大切な言葉。少しでも父と理解し合えれば…」と、父の言葉を噛みしめる。