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#112「アメリカ/ロサンゼルス」 7月18日(日) 午前10:25〜10:55


 今回のお届け先はアメリカ・ロサンゼルス。自らのドラムメーカーを立ち上げたドラム職人、中村雅愛(まさよし)さん(51)と、大阪・東淀川区に住む父・恒麿さん(83)、母・むら子さん(75)をつなぐ。昨年まで腕利きの大工だった父。破天荒に生きてきた息子とは長く理解し合えなかったという。しかし、今は同じ職人の道を歩くようになった雅愛さんを「健康でやっているのか。生活はうまくいっているのか」と気遣う。

 2年前にドラムメーカー「Gaai Drams」を立ち上げた雅愛さんは、自宅ガレージを工房に、たった一人でドラムを作り続けている。顧客には、60年〜70年代のモータウンサウンドを支えた伝説のドラマー、ジェームス・ギャドソンもいる。ギャドソンは「たくさんドラムを使ってきたが、彼のドラムは他とまったく違っていた。とにかく音がいいんだ」と絶賛。雅愛さんのドラムに惚れ込んでいる。

 雅愛さんが手がけるのは、ハイテクな素材やパーツは使わず、基本に忠実でシンプルなよく鳴るドラム。「僕が今できることは、ここ(スタンダード)からじゃないかと思っている。ものすごくシンプルで、いかに良いモノが作れるか…そこから始めていきたい」と雅愛さんはその信条を語る。音に大きな差が生まれる塗料の塗り方ひとつ、音質を大きく左右する胴のエッジの削り方ひとつとっても、細部にどれだけこだわるかがドラムの出来映えを決める生命線となる。「コンマ何ミリ狂っても音は変ってくるが、最終的に頼りになるのは自分の感覚だけ」と、雅愛さんは異常なまでの細かさで徹底的にこだわり抜く。「きれいに作るのは誰でもできる。本当にいい物は精魂を込めて、その機能を考え、愛情を向けて作ることだと思う」。それがドラム職人としての雅愛さんの仕事のやり方なのだ。

 「小さいときから大工だった父の仕事場に連れて行ってもらっていたので、昔からもの作りは好きだった」という雅愛さん。実は職人になる前は、プロのドラマーとして活動していたのだが、才能に限界を感じて断念。もの作りへの憧れもあり、自らのドラムの知識を生かして、38歳にしてドラム職人を志したのだ。職人としては遅いスタートだったが「夢をはっきりとイメージすることで、どういう段階を踏めばいいのか、やるべきことの順番が見えてきた」という。雅愛さんは渡米してドラムメーカーに就職。10年間修業を続け、2年前、ようやく自らの工房を持ち、その夢を実現させた。「今後の夢は…会社を大きくしたいわけではない。自分の手で作るドラムがどれだけの人に認められ、求めてもらえるか。それだけです」。目指すのは、一人のドラム職人として生きていくことなのだ。

 息子の仕事ぶりを見るのは初めてという父は「エエもん作ってるなと思いました」としみじみ。10代で家を飛び出し、プロのドラマーになり、ドラム職人の道を歩んできた雅愛さんの破天荒な生き方は、両親から長く理解されず、昔気質の職人だった父とは衝突も絶えなかったという。だが奇しくも父と同じ職人の道を歩み始め、その関係も変ってきたという。「父から"お前も同じ木に触れる仕事をし出したな"と言われて…。喜んでくれているみたいです」と雅愛さん。

 そんな父からのお届け物は、父が仕事で長年愛用してきたかんな。職人としての行き方、魂を息子に託す…。そんな想いが込められていた。雅愛さんは「親父のものをもらい受けたのは初めて。お守りにしたい」と、しみじみと父のかんなを眺め続ける。