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#108「フィンランド/ロヴァニエミ」 6月20日(日) 午前10:25〜10:55


 今回の配達先はフィンランド・ラップランド州。この地でフェルト製品を手作りしているフェルトデザイナーの浦田愛香さん(36)と、大阪・十三に住む父・昭さん(68)、母・さだよさん(62)をつなぐ。現地に一人で会社を興した娘に、父は「私も自営業をしていたので、彼女が一人立ちしてどういう仕事をしているのか知りたい」と気になるようだ。

 日本でも人気のデザインブランドが多いフィンランド。愛香さんはそんなフィンランド・ラップランド州最大の町・ロヴァニエミに工房を構えている。フェルトの制作は、あらかじめ染色された羊の原毛を少しずつ引き延ばしながら、ちぎって均等に並べるところから始まる。そこに洗剤とぬるま湯を馴染ませ、手や洗濯機で振動や圧力を掛けることにより羊毛が絡み合ってフェルト化が進み、一枚の布になる。これを切ったり縫い合わせたりして、さまざまな作品に仕上げていくのだ。「同じ原毛から薄い布も厚い布も、球状など3次元の立体も作れる。そこが魅力でフェルトにのめり込んだ」と愛香さんは語る。

 大学卒業後、一度は家具のデザイン会社に就職したが、憧れだった北欧デザインを学びたいと、9年前にフィンランドの大学に留学。そこで出会ったフェルトに見せられ、5年前にたった一人でこの会社を立ち上げた。実は夫のカッレさん(36)もモノ作りに携わるアーティストだ。

 だが、まだまだ安定した収入を得られていないのが実情。愛香さんは自分の作った商品を飛び込みで店に持ち込み、置いてもらえるよう営業も続けている。フェルト作家が多いフィンランドだけに、愛香さんは「すでにあるものを作ってもしょうがない。日本人のバックグラウンドがちょっとでも出ているものをデザインしていきたい」と、日本人らしさを大切にした作品を作り続けている。

 愛香さんには思い出深い場所があるという。大学時代にいつも通っていた橋だ。「留学する前、父が知り合いに"ヘルシンキの大学受験がダメやったら、諦めさせて大阪で就職させる"と話しているのが聞こえて悔しかった。見返してやる…というのじゃないけど、本気やということを証明するためにも、実績を作りたかった。そう思いながら歩いた道です」と愛香さんは振り返る。

 そんな愛香さんがこだわっていることがある。商品のパッケージに施されている印刷を、あえて昔ながらのシルクスクリーンで一つ一つ愛香さんが手作業で印刷しているのだ。「父がシルクスクリーン印刷を仕事としてやっていたので、私もデザインの仕事をしている限り、それを引き継いでやっていきたかった」。ひたむきに働く父の背中を見て育った愛香さんの気持ちが、そこには表われている。

 いつか父に認められたい…。そんな一心で頑張ってきた愛香さんに父から届けられたのは、日本にいた頃に愛用していたミシン。デザイナーになる夢を描きながらずっと使っていたものだ。「お母さんが買ってくれたミシンです」と当時を思い出して感極まる愛香さん。添えられた手紙には「商いは牛のよだれ」という、細く長く粘り強く継続する大切さを表したことわざと、娘を応援する父の想いがしたためられていた…。