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#083「イタリア/フィレンツェ」 12月6日(日) 午前10:25〜10:55


 今回の配達先は歴史と芸術の街イタリア・フィレンツェ。教会や建物などの壁に描かれ、数百年の時を超えて今に残るフレスコ画の修復師として活躍する前川佳文さん(35)と、奈良に住む父・好秀さん(65)、母・英子さん(62)をつなぐ。佳文さんが日本を離れてもう13年。不安定な職人の世界だけに、息子の将来を考えると父の不安は募るばかり。「早く帰ってきて欲しい。孫の顔を見たい」と、息子を思い出すだけで泣き出してしまうほどだ。

 佳文さんが修復師を志したのは10代半ば。ミケランジェロがシスティーナ礼拝堂に描いたフレスコ画の13年に及ぶ修復作業に密着したドキュメンタリー番組に感動したのがきっかけだった。その後、大学で絵画を学びイタリアへ。以来、修業を重ねて13年。今は腕利きの修復師として活躍している。現在手がけるのはミケランジェロの弟子が500年前に描いたという教会のフレスコ画。長い間にろうそくの煤などで黒ずんだ汚れを洗浄し、色あせ、劣化したところに、小さな筆でひとつひとつ色を補っていく気の遠くなる作業が続く。報酬は日当で1万円あまり。将来の保障もない仕事だが、佳文さんは「この画家が描いていた当時も、僕と同じ場所にいたわけで、仕事をしているとタイムスリップしたような感覚になれる」と、修復師にしか得られない喜びを語る。

 失敗は絶対に許されないシビアな世界で13年間、地道に技術を磨いてきた佳文さん。今ではその評判がイタリア国外にも届くようになり、世界中から壁画修復の依頼が舞い込むまでになった。そんな彼を支えてきたのは、警察官として実直に働き続ける姿を見せてくれた父だという。「僕にとっては最高の父親。あの人がいたから今の自分がある。人生の目標です」。そんな息子の言葉に、父は思わず号泣する。

苦しかった修業時代には金銭的な援助もしてくれたという両親。そんな両親にぜひ見てもらいたい、と佳文さんは一番好きだというフレスコ画を紹介し、「一生勉強だと思っている。死ぬまで壁の前にいたいし、死ぬときも壁の前で死にたい」と熱い想いを語る。その言葉に山口智充は「そう思える仕事を見つけた佳文さんはすごく幸せだと思う」というが、父は「親じゃなかったら"スゴイ"と思うのでしょうが…困ったものです」と寂しげに肩を落とす。

 現在恋人のいない佳文さんの生活はまさに修復一色。そんな息子を心配する父からのお届け物は、佳文さんが幼稚園の時に初めて描いた父の似顔絵。父が30年以上大切に持っていたものだ。「懐かしい…」とその絵をしみじみ眺める佳文さん。添えられた手紙には「佳文の仕事は立派だと思うが、将来を考えると心配で仕方がない。早く日本に帰って安定した生活を送って欲しい…」と綴られていた。そんな父の想いに佳文さんは「寂しい気持ちはよく分かる。いつか時期が来たら両親の側で暮らしてあげたいとは思っている」と応えるが…。