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#068「フランス/パリ」 8月16日(日) 午前10:25〜10:55


今回はフランス・パリの老舗高級メゾンでスーツ作りに情熱を燃やす鈴木健次郎さん(32)と、東京・三鷹市に住む母・三津子さん(64)をつなぐ。離婚後、お好み焼き屋を一人で切り盛りする母は「ちゃんと食べて行けているのか…本当にパリで認められているのか…」と6年前にパリに渡った息子を案じる。

ルイ・ヴィトンやディオールなどが軒を連ねるパリのブランド街にある老舗高級メゾン「フランチェスコ・スマルト」。健次郎さんはそこでお客さん一人一人の体型にぴったり合うよう、ミリ単位まで調節してスーツを作る"カッター"として働いている。顧客には諸外国の国王や大統領、スポーツ選手など世界のVIPの名前がズラリと並ぶ。健次郎さんが作るのは一着100万円はするというオーダーメードのスーツ。最高級の生地を使ってすべて手作りされる一生ものの逸品だ。35人いる職人はパリで選りすぐりの腕利きばかり。それをとりまとめているのが"チーフカッター"の健次郎さんなのだ。

スーツ作りはお客さんの詳細な体のサイズを測ることから始まる。体型に関わるあらゆるデータを収集し、それを元に健次郎さんが作るのが"パターン(型紙)"と呼ばれるスーツの設計図。体型に合わせてミリ単位で調整していくこのパターン作りができるのは、フランスでも一握りの職人だけ。この会社では健次郎さんしかできない作業だ。これを設計図として裁断から縫製まで2ヵ月以上かけ、35人の職人全員で一着を作り上げていく。そのすべての工程をチェックするのも健次郎さんの仕事だ。

6年前、カッターを目指してパリに渡った健次郎さん。専門学校で2年間スーツ作りに没頭し、主席で卒業。フランス一のカッターに弟子入りし、テーラーで働くために必要な国家試験にも合格した。だが健次郎さんをカッターとして雇ってくれる店は一軒もなかった。「パリはまだまだアジア人に対する人種差別が根強く、"君はカッターにはなれない"とはっきり言われた。人の3倍努力すればできると思っていたが、それだけじゃクリアできないことを初めて痛感させられた」と振り返る。そんな打ちひしがれた健次郎さんを救ってくれたのは専門学校の校長だった。彼の高い技術を誰よりも知る校長が、現在のメゾンに推薦してくれたのだ。今はメゾンの幹部も「彼がここで働いているのを誇りに思う。日本に帰したくない」というほど健次郎さんに絶大な信頼を寄せている。

現在は6年前に結婚して一緒にパリに渡った妻・美希子さんと二人暮らし。健次郎さんは家に帰っても時間があればスーツ作りに没頭する。「将来は自分のテーラー(店)を起こしたい」。その夢のために技術を磨き続けているのだ。

憧れのチーフカッターになり、ようやく安定した生活を手に入れた健次郎さんだが、それまでは収入もほとんどない状態だったという。そんな時代を支えてくれたのは母だった。離婚後、一人でお好み焼店を切り盛りして続けてくれた仕送りを、健次郎さんはすべて書き留めていた。その総額は286万円にものぼるという。

そんな母からのお届けものは五目ちらし。幼い頃からお祝いの時には必ず作ってくれた思い出の味だ。そこには苦難を乗り越えて夢を掴んだ息子を祝福する母の想いが込められていた。6年ぶりに食べる母の味に「懐かしい…。親孝行したい。母が元気なうちに日本に戻ってあげたい」と健次郎さんは涙をぬぐう。