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2023.11.24

舞台『ある都市の死』に出演する小曽根真さんに聞く「観に来る」というより、「感じに来る」作品

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舞台『ある都市の死』
小曽根真さんインタビュー

12月12日(火)・13日(水)に、サンケイホールブリーゼにて上演される舞台『ある都市の死』。原作『戦場のピアニスト』『シュピルマンの時計』を題材に、世界的ジャズピアニスト・小曽根真さんと、世界的ダンスパフォーマンスグループ s**t kingzの持田将史さんと小栗基裕さんが、ピアノ演奏、語り、ダンスを通じて、「一度きりの人生」を描き出す作品です。
今回は、小曽根真さんに舞台の見どころを聞きました。

映画『戦場のピアニスト』の主人公として知られ、戦禍を生き抜いたポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマン。小曽根さんは、このシュピルマンに重なる存在として舞台に存在します。出演を決めた経緯とは…。

小曽根出演を引き受けたのは、僕にできるかどうかわからなかったから。できるかわからないものに惹かれるところがあるんです。今から20年前、クラシックコンサートでモーツァルトを弾くことになり「できない!」と思ったけれど、引き返すことができずやってみたらできた経験があって。今回も、作品を観た時に「こんな大役…!?」と思いました。どこまで自分が役目を果たせるかわかりませんが、全くわからないところへ入っていくような感覚に惹かれています。

小曽根さんはシュピルマンという人物を、どのように受け止めているのでしょうか。

小曽根まだ自分の中で消化しきれていないんです。恐怖の中で生きていたら、哲学を考える余裕などなく、まさに生きるのみ。戦争が終わってからどんな思いをされてきたのか…。

シュピルマンが“戦場”という究極の恐怖の中でピアノを弾くという状況に、同じピアニストとして小曽根さんはこう話します。

小曽根僕自身は、シュピルマンはピアノを弾き始めた瞬間、(銃に)撃たれるかもという状況の中で、「それでもいい、これで死ねたら本望」くらいの思いがあったのではと想像します。それほどピアノが弾けなかったのだから。自分の中で最高の音で弾いてやろう、という思いしかなかったのでは、と思います。

小曽根さんは、シュピルマンとして舞台上に存在しつつ、戦争によって破壊されていく街の魂も、ピアノ演奏で表現していきます。

小曽根ひとつ言えることは、「演奏会」ではないし、それに音楽で「説明」はしません。音楽はあくまでも流れていくだけで、ヒントを与える役目だと考えています。歌詞のない曲というのは、歌詞がないからこそ、想像でそれぞれの人生の思いをリンクさせることができます。今回も、主人公のシュピルマンとその息子の物語を感じることで、観客個々の中の感情が沸き立ち、知らなかった自分を見つけることになる観劇になればいいなと思っています。

共演するs**t kingzの持田将史さんと小栗基裕さんは、シュピルマンとホーゼンフェルト、息子であるクリストファーを、語りとダンスで表現します。小曽根さんは、s**t kingzのふたりを「すばらしい感性の持ち主」と絶賛します。

小曽根稽古の段階で、オグリくん(小栗基裕)とショージくん(持田将史)の吸収力には驚かされるものがありました。芸事を長く続けていると、おのずと“メソッド”が作られていくものです。しかし彼らは常に探していて、僕の発する音から何かをつかんで持っていく。彼らはダンサーですが、お互いのエネルギーを心でつかむというイメージは、ミュージシャンとセッションをしている感覚に似ているかも知れません。
もちろん稽古で練り上げてひとつのものにしていきますが、本番がスタートした瞬間、お互いのエネルギーが行き交って、ものすごいスピードのキャッチボールになると思いますよ。

今作の大きなテーマである「戦争」。まさにこの瞬間も、戦争が実際に起こっている国もあります。いま、この作品を通して小曽根さんが伝えたいこととは…?

小曽根一人ひとりが考えていかないといけないでしょう。作品を観ていただくことで、「戦争はだめ」という短絡的なことではなくて、そこにかかわっていく、興味を持つアウェイクニング(目覚め)があればいいな、と。いろんな意見があっていいし、お互いの違いを許容することは、芸術の世界では当然のように許されていることです。そうした考え方が世の中全体に広がっていけば、戦争には向かわない。そう希望を持っています。正解はひとつではありません。その人の大切にしているものを、まわりも受け入れる。それだけのキャパシティを持つ。その手伝いができるのが、芸術ではないかと思うんです。
大きく言うなら、平和に向けて人間を深掘りするものにしたいです。

最後に、作品の見どころを教えていただきました。

小曽根ピアノもダンスも全部は決めていないんです。その瞬間に、そこにあるものを感じて創る。僕のピアノにリンクして、s**t kingzがダンスを踊る。10公演あれば、10公演すべてが違うものになるので、全公演観に来てください。音楽は、8割がアドリブです。気分が乗らなければ予定曲を弾かない時もあります。その時、ダンスはどうなるか…?踊らないのか、踊るなら何を踊るのか?どんなケミストリーが起こるのか、わざわざ劇場に足を運ぶ意味を感じられるはずです。「観に来る」というより、「感じに来る」という言い方がしっくりきますね。きっと、渦の中に巻き込まれるから。

プロフィール
小曽根真
1983年バークリー音大ジャズ作・編曲科を首席で卒業。同年米CBSと日本人初のレコード専属契約し全世界デビュー。2003年グラミー賞ノミネート。2010年ショパン生誕200年を記念したアルバム『ロード・トゥ・ショパン』を発表、ポーランド政府より「ショパン・パスポート」を授与されるなど高い評価を得る。ソロやトッププレイヤーとの共演、主要オーケストラのソリストや自身が率いるビッグ・バンドの活動など、世界の最前線で幅広く活躍。
舞台『ある都市の死』
日程:12月12日(火)・13日(水)
会場:サンケイホールブリーゼ
チケット:好評発売中!

https://www.ytv.co.jp/event/contents/arutoshi.html
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