少年野球の競技人口が激減! 少子化だけでない社会的な問題が…阪神タイガースの取り組みも

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放送日2021.11.27

少年野球で使われる軟式ボール
少年野球で使われる軟式ボール

“国民的スポーツ”と呼ばれる野球。今年は特に盛り上がった1年だった。東京五輪の侍ジャパン金メダルに、海を渡った“リアル二刀流”大谷翔平選手のMVP。熱戦が繰り広げられたヤクルトとオリックスの日本シリーズ。一方で“平成の怪物”…松坂大輔選手の引退など、一時代の終わりを告げるニュースもあった。
しかし今、その基礎とも言える少年野球に今、異変が起きている。一体なにが?

□メンバー激減で合併…新チームに

元気に練習する2チームの子どもたち
元気に練習する2チームの子どもたち

兵庫県西宮市の閑静な住宅街、苦楽園。11月のある週末、小学校のグラウンドで白球を追いかける子どもたちは、よく見ると違うユニフォームを着ている。この日集まっていたのは、「苦楽園オールヒーローズ」と隣町の「神原スピリッツ」の子どもたちだ。
苦楽園オールヒーローズ 野村努 監督(54)
「我々のチームは20数人いるが、神原スピリッツは20人を切る程度。この2チームはかなり部員が減ってきてしまっている。これは助け合って何かできないかと」
メンバーが減る中、将来的にこの地域の野球チームが無くなるのではないか…。そう危惧した苦楽園の監督は2020年秋から神原チームと合併に向けた協議を続け、2つのチームは2022年1月に合併し、新チーム「神原苦楽園ツインスターズ」として生まれ変わることが決まった。

新チーム「神原苦楽園ツインスターズ」のユニフォーム
新チーム「神原苦楽園ツインスターズ」のユニフォーム

新しいチームのユニフォームを笑顔で受け取る子どもたち。「新チームになるので頑張っていきたい」と、前向きな言葉が相次いだ。合併することの相乗効果もあったと監督は話す。子どもたちのやる気も上昇し、監督やコーチが指示を出さなくても声を出すようになったという。
野村監督「合併という話になって、練習に参加する部員も増えたし、体験や新しく入団する選手も増えました」

□競技人口は減少傾向…少子化だけでないそのワケ

全日本軟式野球連盟によると1982年度には推定32万人だった競技人口も2020年度には約18万7000人となっており、年々減少傾向を辿っている。野球をする子どもたちはなぜ減っているのか?その背景について、スポーツジャーナリストの二宮清純氏はこう語る。「1番大きな理由は少子化ですが、2番目の問題としてあるのは、ボールを投げる環境が少なくなってきていること。これも大きな原因の1つだと思います。」

□保護者の負担…合併するチームの対策は

共働き世帯は年々増加
共働き世帯は年々増加

2022年1月に合併する苦楽園オールヒーローズと神原スピリッツの両チーム。合同練習が行われたこの日、グラウンドには保護者に向けた審判講習も行われていた。小学生の野球では、練習試合や地域のリーグ戦などで親が審判を務めることも珍しくないのだ。この日のテーマは「ボーク」について。野球経験者の保護者からは「良い経験」という意見もあったが、責任ある審判という立場を「出来ればやりたくない」と話す保護者もいた。
また審判以外にも練習の出欠確認や、送迎なども親が行っている。子どもを盛り上げていこうという保護者たちが多いが、そのために費やす労力も大きい。
総務省によると、1980年は614万世帯だった共働き世帯は、2020年には1240万世帯と倍増している。こうした家庭環境が、かつては全力で子どもたちをサポートできた親たちを、グラウンドから遠ざけているのかもしれない。

□衝撃…将来的にも野球の競技人口は激減

スポーツ庁がまとめた中体連競技別加盟人数の推計
スポーツ庁がまとめた中体連競技別加盟人数の推計

現在、野球をする子どもたちは減少傾向にあるが、将来的にもその傾向が続くという試算が出ている。スポーツ庁が作成した「中体連の競技別加盟人数の推計」によると、軟式野球人口は2009年度に30万7053人だったが、2048年度には2万3575人に激減するという衝撃の予想が示されている。少子化の影響は野球に留まらず他の団体競技も減少傾向だが、本当にこんな数字になってしまうのだろうか。

□競技人口減少を食い止めるため…阪神タイガースの取り組み

コーチとして指導するのは阪神タイガースOBの柴田さん
コーチとして指導するのは阪神タイガースOBの柴田さん

競技人口の減少に対し、プロ野球球団も対策に乗り出している。兵庫県芦屋市の野球場では、阪神タイガースが運営する「タイガースアカデミー」が野球教室を開いていた。参加する子どもは5歳になる年から中学2年生まで。現在約1000人の子どもが入会している。
「タイガースアカデミー」の狙いは子どもの頃から野球に触れる機会を作り、野球を身近で楽しいスポーツと感じてもらうこと。競技者だけでなく将来の野球ファンの育成も視野に入れている。コーチとしてグラウンドに立つのは、阪神タイガースOB選手だ。
この日のコーチは現役時代、俊足で思い切りの良いバッティングに定評があり、あの大谷翔平投手から2安打を放ったこともある元阪神タイガースの外野手、柴田講平さんだ。

タイガースアカデミー柴田講平コーチ(35)
「投げたボールを打つというのはできない子が圧倒的に多いので、そうすると“出来ない=楽しくない”とつながってしまう。初歩段階からスタートという感じで教えています」

初期費用がネックとなっている野球道具は貸し出しされ、使用するボールやバットはスポンジ製やゴム製など安全面に配慮されている。この日練習に参加した子どもたちは口々に「バッティングが楽しかった!」と話してくれた。

タイガースアカデミー柴田講平コーチ(35)
「興味をもってもらうためには楽しんでもらう。楽しんでくれるようになったら次は好きになってもらう。そうすると野球がやりたい、もっと上手になりたい…となっていく。そこから野球人口が増えてくるのではないでしょうか。」

□“野球離れ”は子どもたちの運動能力低下の一因?

ソフトボール投げの距離は年々短くなっている
ソフトボール投げの距離は年々短くなっている

「体力・運動能力調査」における“ソフトボール投げ”の分野を見てみよう。11歳男子の記録は1971年には35.4メートルだったが、2019年には26.65メートルと落ちており、明らかに運動能力の低下が見られる。スポーツジャーナリストの二宮氏は「公園などでボール投げをする機会が減ったことで能力低下につながっているのではないか」と指摘する。

“多様性”を重視する時代。「子どもが野球をやるのが当然」という時代はとうに過ぎた。ただ「ボールを打って投げて、野球は楽しいスポーツだ」と子どもたちに認識してもらうことが“国民的スポーツ”を再び盛り上げ、やがて“第2の大谷翔平”を生み出すことにつながるかもしれない。