【特集】「基本は掃除から」90歳“世界最高齢の現役総務部員”が語る仕事の“極意”新入社員に直接伝授

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放送日2021.04.03

 新入社員に語り掛ける玉置泰子さん=大阪市西区で1日
新入社員に語り掛ける玉置泰子さん=大阪市西区で1日

「世界最高齢の総務部員」として去年ギネス世界記録に認定された玉置泰子さん(90)が1日、勤務先のねじ専門商社「サンコーインダストリー」(大阪市西区)の新入社員研修で講演。「掃除の心得」と題し、社会人の一歩を踏み出した後輩たちにエールを送った。

「パワーポイントにすれば時間がかかるので、一方的にレジュメで話をしようかと…」
玉置さんは、文書作成ソフトウェア「ワード」で自ら作成した資料を片手に新入社員研修の進め方を語りだした。

去年12月、「世界最高齢の総務部員」としてギネス認定された玉置さんは、25歳だった1956(昭和31)年4月に知人の紹介で入社。55歳で定年退職後、1年契約の再雇用で仕事を続けてきた。現在もフルタイム勤務だ。20年ほど前に到来した業務のコンピューター化にも対応。表計算ソフト「エクセル」で予算管理などもこなす。

玉置さんに託されたもう一つの重要任務が、新入社員研修だ。今年のテーマは「掃除の心得」。

「お掃除は立派な営業活動なんです」
「素早い対応も的確な答えも整理整頓からできるわけです」
「社長がいつも言っているが、注文を受けた時の素早い対応が一番大切」

はきはきとした口調で矢継ぎ早に仕事の“極意”を伝授。15分間、立ちっぱなしで“ひ孫世代”の新入社員に語りかけた。

玉置さんの”直属の上司”佐藤宏彦総務部長=大阪市西区で
玉置さんの”直属の上司”佐藤宏彦総務部長=大阪市西区で

周囲は玉置さんをどう見ているのか。
現在、直属の上司となる同社の佐藤宏彦総務部長(47)は、「私が入社した25年前、玉置さんは65歳。すでに“おばあちゃん”でした」と親しみを込めて笑う。ただし、「いまも漢検準1級取得を目指して勉強している。刺激を受けます」。

「会社での“生活”は楽しいから、朝会社に来るのは足が進む」と語る玉置さんに、こんな質問を投げかけてみた。

Q気持ちの中では、いくつだと思っているのですか

「自分でも年齢不詳です。90歳なんて自分では思ったことがないんです。友達から、“若く見える”“仕事をしているからかな”などと言われる。そう言われたらその気になっちゃって、若く見られるならそら結構なこっちゃという感じですね」(玉置さん)。

一方、高齢者雇用をめぐっては今月1日、改正高年齢者雇用安定法が施行。同法がこれまで企業に義務付けていた65歳までの雇用確保に加えて、新たに70歳までの就業機会の確保を努力目標とした。

しかし、厚生労働省の1月調査では、65歳までの雇用を確保した企業が99.9%なのに対し、66歳以上では33.4%にとどまっているのが現状だ。(令和2年「高年齢者の雇用状況」)

ノジマの”カリスマ店員”佐藤正さん(73)=神奈川県藤沢市で
ノジマの”カリスマ店員”佐藤正さん(73)=神奈川県藤沢市で

関東地方を中心に店舗展開する家電量販店「ノジマ」(横浜市西区)は去年、法施行に先駆けて、パートや嘱託で最長80歳まで働ける制度を設けた。

「この冷蔵庫は“野菜入れ”が一番下なんですよ」

神奈川県藤沢市の店舗で働く販売員、佐藤正さん(73)は、56歳のときに大手家電メーカーから同社へ転職。現在はパートタイムで週3回、店頭に立つ。売り上げ成績が上位で商品知識も豊富など、同社が特別な販売員に認定する「エースコンサルタント」の肩書きを持つ一人だ。

“シニア・カリスマ店員”の販売術は、徹底した同世代目線。佐藤さんによると、藤沢店の来店客の約4分の1は、同世代の高齢者だ。高齢者の立場から見た“使いやすさ”“使いにくさ”を説明することで、より顧客ニーズに合った商品を勧めることができるという。

「空焚き防止機能は両方ともあります」(佐藤さん)
「白い色のはある?」(客)
「ちょっと見てきます。待っていてください」(佐藤さん)

電気ポットを買いに来た客と佐藤さんとのやりとり。5分ほどで客は“即決”、購入していった。使用する電気製品のほとんどを佐藤さんから購入したというこの客は、「(佐藤さんは)年齢が近いから、商品の“実情”を聞けるというのはある」と語った。
73歳を迎え、なぜいまも仕事を続けるのか。
「定年でいったん退くことが、社会に取り残されていくようで嫌だった。70代になると老体でもう(体力的に)だめなんだろうなと思っていたが、実際なってみるとまだまだ健康体なので」
「56歳で拾ってくれたノジマに感謝していて。これからも少しでも恩返しができれば」(佐藤さん)。

神戸松蔭女子学院大学の楠木新教授
神戸松蔭女子学院大学の楠木新教授

しかし、佐藤さんのような“シニア転職”の例は、現状ではまだ珍しいという。
企業と雇用の関係に詳しい、神戸松陰女子学院大学の楠木新教授は、シニア転職市場の整備の必要性を指摘する。
「これまでは終身雇用で定年を迎え、同じ会社で再雇用するというのが前提だった。そこから出て自分なりの仕事を探そうとすると、ハローワークや人材派遣会社に行っても面接にさえたどり着けないというのが現状。シニア世代の雇用市場をマッチングさせる取り組みが必要だ」