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特 集

2019/09/28

特集01

雨傘運動から5年 香港は”密告”社会に

(小俵靖之ディレクター)
「林鄭月娥長官が会場に入ってきました。
市民と直接話をする初めての集会が始まります。」

おととい。香港政府のトップが市民の意見を直接聞く集会が開かれた。
2万人以上の応募の中から抽選で選ばれた150人の市民。
政府を支持する市民ばかりが選ばれるのではないかとも言われたが、
参加者からは辛辣な批判が相次いだ。

(香港市民) 
「政府に一国二制度をきちんと保ってほしい。お互いに介入しない本当の一国二制度を」
(参加者)
「警察は、記者も民間人にも暴力を振る。市民は警察を見たら、逃げるしかないんです』

そのころ外ではー。

(ディレクター)
「会場の外では多くの若者集まって警察の暴力を批判したり香港の自由を守れと訴えたりしています』

(香港市民)
「香港人はずっと「一国二制度」の下で生活していきたいんです」

若者たちのデモは、集会が終わった後も日付が変わるまで続いた。

5年前のきょう、
若者たちが中心となって民主化を求めたいわゆる『雨傘運動』が始まった。

その後、活動は鎮静化していたが
ことし、香港政府が『逃亡犯条例』の改正案を議会に提出したことをきっかけに、大規模なデモに発展。

デモ隊の一部は暴徒化。
香港政府は今月、逃亡犯条例の改正案を撤回したが、デモ活動が収まる気配はない。
香港社会で、いま、何が起こっているのか。

施安娜さん。香港の大手航空会社、キャセイパシフィックの子会社で
19年間、キャビンアテンダントをしていた。
仕事にやりがいを感じていたが先月、上司に呼び出され、突然解雇を告げられた。

(施安娜さん)
「フェイスブックに書き込みをしたか聞かれて、
”はい”と答えたり、すぐクビになりました」
「理由を教えてほしかったけど“説明できない”と言われました」

キャセイパシフィックでは先月、最高経営責任者が突然、辞任した。
背景には、デモに参加した従業員を中国本土への便に乗せることを禁止されたり、
従業員の個人情報を提供するよう指導されるという中国政府の圧力があったといわれている。

施さんは自らのFacebookに、
最高経営責任者の辞任を『アンハッピー』と書き込んだことが解雇につながったとみられる。

(施安娜さん)
『どんな政治的スタンスかにかかわらず、
 会社が傾いたら全員被害者だと感想を言っただけです』

さらに問題なのは、親しい友人にしか公開していない書き込みを
なぜ会社が把握したのかという点だ。

(施安娜さん)
「同僚が外部に漏らしたんでしょう。私は仕事の仲間とここまでこじれたことが悲しいし、怒りを覚えます。
 誰が友人なのか、誰が敵なのかわからず、こわいです」

キャセイパシフィックの元パイロットで
立法会の議員を務める譚文豪さんによると、
解雇されたパイロットなどは20人以上。
デモを収束させるため、中国政府が民間企業への締め付けを強める、
いわゆる「ホワイトテロ」が広がっているという。

(譚文豪さん)
「職員は自分の自由時間での行動も監視されています。
 誰が他人に自分の行動を密告するかわからないので、
 スタッフ同士、信頼はなくなりました。日々ホワイトテロに怯えています」

従業員同士のコミュニケーションが減り、
このままだと運航の安全性にも影響が出かねないと感じている。

香港で95業種、20万人の労働者が加入している民主派の労働組合団体の代表は
中国政府の介入が香港政府を変えてしまったと指摘する。

(香港職工連盟 呉敏児主席)
『「ホワイトテロ」に反対する集会にこわくて参加できません。言論の自由が干渉されています」

香港の人々の間で話題になっているこのホームページ。

(サイトより)
『密告した人は懸賞金がもらえます!』

このページが開設された発端は先月3日、観光客が多く訪れる九龍地区の繁華街で起きたデモだ。

(ディレクター)
「デモ隊の一部が中国の国旗を引きずり下ろし海に投げ捨てた行為が
 中国政府を激怒させたと現地メディアが伝えています」

中国政府のメンツを脅かす行為。

この『事件』の後に登場したホームページには、
破壊行為に関わったとされる人物の写真が…。
情報提供者には最高100万香港ドル日本円で1400万円を支払うと書かれている。

一体誰がこのホームページを立ち上げたのだろうか?
私たちはホームページに書かれた連絡先に電話をしてみた。

(電話)
「メッセージを残してください」

何度電話をかけても留守番電話になり担当者につながらなかった。

実態がよくわからないホームページ。
しかし、香港政府の前のトップだった男性までもが自身のSNSで取り上げ、
『懸賞金運動』を拡散するよう呼び掛けた。

さらにー。

(ディレクター)
「中国では、このような動画がネット上にアップされています。香港で
 民主化運動をしている4人の実名を挙げて
 アメリカの手先だ、裏切り者だと批判しています」

(動画より)
『香港から出ていけ!中国から出ていけ!アメリカの犬だ!』

動画は、香港の民主化運動の中心人物4人を名指しして、
アメリカの手先となって香港市民を扇動していると批判している。
先月、投稿されてから再生回数は92万回に上る。

さらにこの動画を中国共産党の機関紙が引用。
文化大革命の4人組になぞらえて「現代の裏切り者」だと批判している。

4人のうちの1人、陳方安生さん。
香港が中国に返還された当時の香港政府のナンバー2として民主的な政権運営を行ったことから、『香港の良心』と呼ばれている。
現在は政界を引退しているが、いまだに香港市民から根強い人気を誇っている。

(陳方安生さん)
「この2、3年、香港人の目に毎日写っているのは、一国二制度の実施と反する光景ばかりです。香港の基本法に規定された人権・自由が侵害されている以上、選挙の投票権を得られるわけがありません」

陳方安生さんは今回のデモ活動が勢いを失わないのは、
中国政府が活動の背景を見誤っているからだと指摘する。

(陳方安生さん)
「返還して22年もたったのに、香港の若者の心はなぜ、
 中国に向いていないんでしょう?
 彼らは中国政府を打ち倒す思いも、香港政府を打ち倒す意思もありません。
 高度な自治や「一国二制度」を守りたいだけなんです」

収束の兆しの見えないデモに警察の対応は過激化している。
これまでにデモに参加した市民およそ1500人を逮捕したほか、
デモに無関係な市民に暴力を加えたケースもあるという。


香港返還20年を迎えたおととし。
習近平国家主席は香港の民主化や独立を求める動きに対し、強い言葉で警告していた。

(習近平国家主席)
『安全や主権に対するすべての破壊活動は
 越えてはいけない一線で絶対に許さない』

中国は来月1日建国70周年の大きな節目を迎える。
祝賀ムードに水を差す行為には厳しい対応を取ると予測する声も少なくない。

3か月余りにわたるデモ隊と政府の対立は
香港経済に深刻な影響を及ぼしている。

香港市民の多くはデモに理解を示しているが、
経済活動に実害が出ている現状に複雑な胸の内を明かした。

(商店主)
「民意を訴えるならデモに反対はしません。
 ただ、売り上げは30%減りました」

(ディレクター)
「若者たちが変わる変わる訪れ、警察の過剰な暴力に抗議しています。
 きょうは平日だが、これが日常の風景になってしまっているということです」

デモ隊の暴徒化には市民から批判的な声が少なくない。
しかし、それを上回る人々が警察の過激化や中国政府の締め付けを批判している。

親中派の市民と民主派の市民とが衝突する事態にまで発展する香港。

中国に返還されて22年。
繁栄の基盤となった自由が揺らぐ中、香港社会の亀裂は深まっている。

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