宇宙兄弟

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#98

2014年3月15日
「最強の宇宙飛行士」

日々人が突然姿を消してから、数日が経過していた――。
近所の人たちや、親しいNASAの同僚も、誰一人、日々人の居場所を知る者はいなかった。日々人からの連絡は一切なく、その安否を心配した六太は、訓練にも身が入らないでいた。

子どもの頃、日々人が突然いなくなった時のことを思い出す六太。その時に日々人を心配して捜したのは、六太だけだった。
「今度また勝手にいなくなっても、もう探しに行かねーからな俺!」
飄々として反省の色を見せない日々人に、怒った六太。
その際日々人は、『次行くときは、メモを残すか、テレパシーを使う』と約束したのだった。

だが今回も、メモもテレパシーも残されてはいなかった。
日々人からの連絡を待つ六太に、バトラーから電話がある。ようやく六太は、日々人はもう宇宙飛行士として復帰できないことを知ることとなる。日々人の復帰を反対している、マネージャー・ゲイツの機嫌を損ねれば、今度は六太が、月へのチャンスを奪われかねないらしい。

安否を心配し、日々人にメールを送る六太。
『今のままじゃ、お前が生きてんのかどうかもわからん。何でもいいから返信よこせ』

能天気な両親たちですら、さすがに心配していた。
『生きてるか死んでるか、どっちか教えてくれ。……なんとか言えよ日々人……テレパシー使えんだろ。全然聴こえてこねーんだよ!』


その翌日から――。
六太は日々人が復帰できるよう嘆願書を作成し、署名を集めていた。同僚や仲間たちは、快く署名してくれ、みんな日々人の復帰を願ってくれた。
反対しているのは、NASA上部だけだった。
『一人の人間が積み上げてきたものを何だと思ってる……! 俺の弟のことを何だと思ってる……!』
日々人への理不尽な扱いに、六太は苛立ちを隠せないでいた。

一方、室長室では――。
バトラーが、日々人のことで直訴しにきた、六太の言葉を思い出していた。

『その目で見たら、日々人は不運な弱者に見えますかね?』

六太の目で見た日々人は真逆だという。
月の事故では暗闇の谷底から仲間を救い出し、最善の判断で無事生還した日々人。その後のパニック障害も、もちまえの根性で克服して見せた日々人。六太の目には、日々人は他のどの宇宙飛行士よりも本当の恐怖を知っていて、それを乗り越えた最強の宇宙飛行士だった。
その言葉に、バトラーは心底同意していた。
だが今は、なすすべがないのだ。

だがそこに、JAXA職員・星加から電話があって――……?

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