宇宙兄弟

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#97

2014年3月8日
「消えないんだ」

ヒューストンで初めての正月を迎えた南波一家。
南波・母は初笑いのためにお気に入りのDVDまで持参し、家族4人、そろって年越し『うどん』を食べていた。

しかし日々人は、まだ次のミッションが決まらず、不安な毎日を過ごしている様子。室長・バトラーは最善を尽くしてくれているようだが、どうやら日々人の復帰に反対している人物がいるらしく、未だに訓練が少ないという。

「なあ、ムッちゃん。もしかしたら……俺はもう月に行けないかも」

日々人の思いがけない言葉に、衝撃を受ける六太。
『復帰試験に合格したのだから大丈夫だ』と励ますが……。
「俺も最初はそう思ってたんだよ。克服すれば万事解決、またすぐ宇宙に行けるって。だけど全くアサインされそーな気配がなくてさ。それで……なんとなく気付いたんだ」
六太は、不安に押しつぶされそうになっている日々人の声に、緊張を隠せないでいた。

「俺の中からパニック障害が消えても……まわりの頭ん中からは消えないんだ」
努力して足掻いても、『南波日々人はパニックを起こした宇宙飛行士』という事実は、周囲の意識から消えないらしい。

NASAの会議室では——。
室長バトラーは、マネージャーであるゲイツを説得しようとしていた。このゲイツこそが、日々人を復帰させたくない人物なのだ。日々人が克服できたのはプールの中だけ、『月面で発作は起こらない』と断言できない以上、復帰させることはできないとゲイツ。

「樽一杯のワインにスプーン一杯の汚水を注ぐと……それは樽一杯の汚水になる」
さらにゲイツは、日々人を『毒』とまで表現した。
「樽一杯のワインの中に、スプーン一杯の毒……『もう飲んでも大丈夫ですよ』と言われたところで……君なら飲むか? 飲めるワインは他にもあるんだ。バトラー」その問いに、バトラーは答えることが出来なかった。

その結果、バトラーは日々人に、もう宇宙飛行士として、NASAでは復帰できないことを伝えた。
「大丈夫ですよ。バトラーさん……こうなる予感はありました。俺はもう宇宙へ行けないって。そんな気はしてました」
日々人はもう覚悟を決めていたようだった。

日々人から『もう月へは行けないかもしれない』と聞いた、翌朝——。
六太は、出まかせでもいいから日々人に一言、『なんとかなる』と言ってやろうと決めていた。
だが、もう遅すぎた。
日々人は姿を消しており、六太は何も伝えられずに、その機を逃してしまったのだ——。

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