宇宙兄弟

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#96

2014年3月1日
「宇宙飛行士であり父であり」

クリスマスが近づく頃、ケンジには家族が一人、増えようとしていた。
妻・ユキに、第二児の出産が近づいていたのだ。そのため、父親として出来る事をしようと、妊婦であるユキの代わりに、娘・風佳を幼稚園に送るようになったケンジ。
父親として奮闘する姿は、一見充実した日々にも見えたが——宇宙飛行士としてのケンジは、実は不安を抱えていた。それは、六太が月に行くことに決まったかわりに、ケンジが月に行ける可能性が消えたからだった。次のミッションが決まっていないという、ゴールの見えない不安。NEEMO訓練以降、ケンジはずっと、何を目指しているのか曖昧なまま、ひたすら言われた訓練を続けていた。

そして、クリスマスの日——。
テキサスロードハウスでは、宇宙飛行士やNASAの職員たちが集まって、パーティーが行われていた。
カントリーダンスの音楽を奏でるバンドには日々人が加わっており、ステップを踏んでいる人々の中には、カウボーイハットをかぶったせりかや六太が、楽しげに踊っていた。ケンジも新田と一緒にパーティーには参加していたが、その表情は2人とも明るくはなかった。まだ2人には、この後にやるべき訓練と課題が残されていたのだ。そんな2人のもとに、バトラーがやってくる。
『2人に話しがある、外の空気でも吸いながらどうだ?』

バトラーに呼び出されたケンジと新田は、思いがけないクリスマスプレゼントを貰うこととなった。
「君たちのミッションが正式に決定した」
ケンジと新田は、人類初となる有人小惑星探査ミッションに挑むことになったのだ。

『月よりさらに先に行ける』
この朗報を伝えようと、さっそく妻・ユキに電話を入れるケンジ。
電話口でユキも喜ぶが、その声が急に苦しそうな様子に変わった。どうやら、予定日より早く陣痛がきたらしいのだ。

車を飛ばして病院に向うケンジ。
しばらくして——赤ちゃんの泣き声が病室に響いた。生まれたのは、元気な女の子だった。
産後直後にも関わらず、ミッションの事を聞きたいと言うユキに、資料を見せるケンジ。そこには、これから目指す小惑星の名称が書かれていた。
小惑星の名称は「314225AN41」。

偶然にも、以前風佳が希望した赤ちゃんの名前『あん』と、同じ名前を持つ小惑星。赤ちゃんの名前は『あん』に決まった。これからケンジは、小惑星を目指す宇宙飛行士であり、2人の娘の父として生きる。ケンジもまだ、生まれたばかりなのだ。

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