宇宙兄弟

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#93

2014年2月8日
「心の片隅に」

六太がCES—62のバックアップクルーとして新しい訓練を始めた頃、NASAの会議室では、天文チームによるプレゼンテーションが行われていた。
その内容は、『シャロンが考えた、新しい月面望遠鏡案』。
天文学者・モリソンらの協力もあり、この新案は、これまでの問題点を全てクリアした素晴らしいものだった。前案を却下したNASAも、新案には賛同してくれ、実現を前向きに検討してくれることになった。シャロンは『天文学とこの企画に熱意を持ってくれる宇宙飛行士』に六太の名前をあげ、バトラー室長も六太の名前を心の片隅にとどめておくと約束した。

会議後、バトラーは宇宙飛行士であるエディ・ジェイの部屋を訪ねていた。
エディはブライアンの兄で、ISSに計700日滞在した宇宙飛行士の強者である。その彼に、『CES—62のバックアップクルーのリーダーになって月を目指して欲しい』と直談判しにきたのだ。だがエディは、なかなか了承してはくれない。
ISSのことならどんな事でも知っているが、月は初めて行くので、一から訓練を始める気力はない、と断ったのだ。しかしバトラーは諦めず、エディに封筒を渡した。その中には、CES—51の事故の時、日々人が偶然月面で『宇宙飛行士の人形』を発見した際の写真が入っていた。

「エディには月で本物を見てもらいたい。月面であんたを待ってるかのような——ブライアンの置きみやげだ」

エディとブライアンは、兄弟で月面に立つという夢を抱いていた。
そして子どもの頃買った2体の宇宙飛行士の人形を、一緒に月面に並べようと約束していたのだ。しかしエディは、前の室長の理解が得られず、ずっと月面の訓練を受けられないままでいた。その間にブライアンは事故で亡くなってしまい、約束は果たせていなかったのだ。半ば引退を考えていた矢先に、ブライアンの想いが詰まった写真を見せられたエディ。
人生最後に『月を目指す』決意をしたのだった。

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