#80
2013年11月2日 「秘密」
月面バギー開発で見事成果を出すことができた六太は、先輩宇宙飛行士・ビンスに連れられ、新たな訓練の説明会場へと来ていた。その会場にはすでにケンジや新田など、何人もの飛行士たちが集まっていた。そして、12名の飛行士たちが揃ったところで、バトラー室長から訓練内容が発表される。六太たちはこれより数日後から約2週間、NEEMO(ニーモ)で実践訓練をするというのだ。NEEMOとは、海の底、水深20メートルに設置された、仮想月面基地の名称である。そこでのシミュレーション生活は死の危険も伴うため油断はできない。だが、地球上で最も月面を再現できるため、六太にとっては憧れの場所だったのだ。NEEMOまで、あと2日——。六太はロシアから帰国した日々人と、朝食を食べながら近況報告をしていた。「やっと自分も月へ行くための第一段階に立てた」と喜ぶ六太を前に——日々人の顔はどうにも浮かない。怪しむ六太だが、まさか日々人がパニック障害で、さらには安全スーパーバイザーに任命されたことなど、思いもしないようだった。日々人も、このことは六太には隠し通す気のようで——?そして——。六太はケンジらと共に、2週間の月面シミュレーション生活へと突入。一方、日々人は——。安全スーパーバイザーに着任し、与えられた立派なデスクを前に、唇を噛みしめていた。『一人でもリハビリ訓練をしないと……』日々人が思案を巡らせていた丁度その時、ローリーが台車を押して入ってきた。「なんか君宛にものすごい荷物が届いたよ?」台車の上には大きなダンボールがあり、送付状はロシア語で書かれていた。なんとイヴァンが、日々人を思って、集めたコスプレ訓練用の衣装を送ってくれたのだ。決意の表情でヘルメットを手に取る日々人。「なあ……ローリー……秘密……守れるか?」どうやら日々人は、ローリーも巻き込み、現状を打破するため秘密の訓練を決行するようで——?