宇宙兄弟

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#78

2013年10月19日
「時間切れ」

『見えない踏ん張り』を続けてきたオリガは、舞台の上で美しく、まるで無重量空間にでもいるように軽やかだった。

公演後、日々人はオリガに、自分がパニック障害を治しに来たことを打ち明ける。
「日々人ならすぐ治る」と明るいオリガに励まされた日々人は、その帰り道、彼女が欲しがっていた新品のブーツをプレゼントした。

翌日、訓練へ復帰した日々人は、オリガの成長記録の続きを貸してくれるよう、イヴァンに頼んでいた。しかし、貸せない理由があるらしい。
「実はボリューム・ワンを、黙ってお前に見せたことがオリガにバレてな……超怒られた」
そう言いながら、イヴァンは持っていたサングラスを日々人にかけさせ、そのまま施設内を歩かせる。理由もわからず歩き続けると——やがて拍手の音が聞こえ、職員たちが日々人に歩み寄ってきた。
「おめでとう。レベル1合格だ」
サングラスをかけた日々人は、知らぬ間に、先日、与圧服を着て歩けなかった距離を歩ききったのである。これは、コスプレをしながら徐々に宇宙服への恐怖を和らげていこう、という訓練。思わず笑顔がこぼれるその内容に、日々人はその日、レベル5まで問題なくクリアすることができた。

「大事なのは、『できる』という経験を得ること。楽しみながら克服しようではないか。パニック障害など!」

一方、ヒューストンでは——。
ゲイツが日々人のパニック障害のことを知ってしまい、その処遇をJAXAに求めていた。理由は、NASAの精神心理担当医が、もう日々人は宇宙へ飛ぶことは不可能だと判断したからだった。非情にもJAXAの職員・田沼は、日々人を『安全スーパーバイザー』にすることを提案した。それはあたかも功績に見合った、立派なポジションに抜擢するかのような辞令だった。だが実際、日々人はそのポジションを得て、宇宙への活躍の場を失うことになる。
それは、『仕事をさせず、日々人を飼い殺し状態にする』と同じことで——……?

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