宇宙兄弟

今までのお話バックナンバー一覧

#77

2013年10月12日
「宇宙飛行士の娘」

与圧服を着ただけで、たった10メートルの距離も歩けなくなってしまった日々人。自分は宇宙飛行士失格だと感じ、リハビリ訓練も、2日続けてサボってしまっていた。

『これからどうしたらいい……』
途方に暮れていると、イヴァンから一通のメールを受信する。
『今夜飲みにつき合え——、一人になるな』

その夜、とても陽気に飲む気分ではなかったが、なんとか待ち合わせの場所へ来た日々人。早くもイヴァンは飲んでおり、「頼みがある」と、映像データーが入ったDVD『オリガの成長記録1』と、ビデオカメラを日々人に手渡した。なんでも、明日ダンスコンクールがあり、オリガが出演するという。自分は訓練と重なって行けないため、日々人にオリガを撮影してきて欲しいというのだ。
そして、イヴァンは落ち込む日々人に一本の道を示した。

「できることから習慣づけろ——まずは私と酒を飲め!」

ほろ酔いで帰宅した日々人は、早速オリガの映像を観ていた。画面の中のオリガは、何度やってもうまく踊れず、すぐにいじけては怒られていた。明らかにまわりの子の方がうまい状況に、オリガにバレエは向いてないんじゃないかとさえ思えてしまうほどだった。
しかし、オリガの夢は今もダンサー。
このあと彼女は、どうやってこんな辛い練習を続けられたんだろうか——?

公演当日——。
ビデオカメラを片手に、日々人は劇場へ来ていた。大勢の観客の中、やがて幕が開くと——星空の下で子どもたちが踊り——主役が登場する。驚くことに、主役はオリガだった。舞台を観ながら、日々人は練習を嫌がる子どもの頃のオリガを思い出していた。もっと楽な方がいいと言うオリガに、母・エミーリアは言う。

『人に見られることをするには、見えない踏ん張りが必要なの。苦しくて苦しくて大変な演技ほど、美しく見えるの』

舞台のオリガは美しく、完璧なアラベスクをキメていた。
それは、辛い練習から逃げず、見えない踏ん張りを続けた、確かな証のようだった——。

バックナンバー一覧はコチラ