宇宙兄弟

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#67

2013年7月27日
「デニール化」

自分でコントロールできる限り、精一杯やる――。
そう覚悟を決めた六太だったが、T-38の操縦訓練は、決して順調とはいえなかった。教官・デニールが、飛行中なにかとジャマを入れてきて、景色を観る余裕すらなかったのだ。
焦る六太にデニールはいう。

『一流のパイロットは、飛行機を飛ばしながら気の利いたジョークも飛ばせ、いつでもどこでもアクロバットで楽しめるもんだ』

六太には一流の宇宙飛行士になって欲しい、そのためにも一流のパイロットになって欲しいというデニール。実のところデニールは、今回担当する教え子が宇宙飛行士に認定されたら、教官を引退すると決めていた。六太が最後の生徒なのだ。

その頃、日々人は――。
ダミアン、リンダ、ピコと共に、無事に帰還できたことに祝杯をあげつつ、訓練中の六太のことを話題に上げていた。デニールの教えを受けていた日々人は、その内容がやたらと負荷をかけてくる事を知っており、六太がもう『デニール化』した頃ではないかと楽しそうに語った。
デニール化とは、知らず知らずのうちに自分が凄腕パイロットになっているということをいう。改造されたマックス号に乗ることや、やたらと話しかけ頭の中の処理項目をどんどん追加させるデニールの行動は、すべて利にかなった訓練方法だったのだ。そうとは知らない六太だったが、見事『デニール化』していた。その運転技術は目隠し飛行をしながらアクロバットができるほど上達していたのだ。

訓練中、デニールに六太は、なぜ訓練前いつも写真に敬礼しているのか尋ねた。
「彼らにあいさつもなしに、アスキャンに操縦を教えるのはなんか後ろめたくてな」
写真に写っている彼らは皆、事故で殉職したパイロットたちで、中には訓練中の事故で死んだ宇宙飛行士もいるというのだ。
この大事な事実に関してデニールは、いつもの「メモっとけ」を言うことはなかった。
だが六太はしっかりと、『心のノート』に記していたのだった。

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