宇宙兄弟

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#66

2013年7月20日
「二つのノート」

自信満々な教官・デニールのもと、宇宙飛行士になるために欠かせない、ジェット機・T-38の操縦訓練を受けることとなった六太は、初飛行だというのに、4倍以上の重力が加わる飛行の時だけに必要な、『Gスーツ』を着込まされてしまう。不安な表情を浮かべる六太に、デニールは機体をチェックしながら語り始めた。

「飛行前のチェック作業は気を抜くな。事故った時、整備士に責任を押し付けるのは、パイロットの恥っちゅうもんだ。心のノートにメモっとけ」
情報や知識は頭のノートにメモり、大切な事柄は心のノートにメモる、最初の教えであった。

初飛行後――。
デニールのアクロバット飛行に度肝を抜かれ、すっかり気持ち悪くなってしまった六太。そんな六太に、デニールは楽しそうに『もう一度乗るか?』と聞いてきた。止まるも進むも、コントロールするのは自分次第なのだ。
「ちなみにヒビトは吐いた後、うれしそーな顔しながら、もっかい乗せろと言ってきたぞ。心のノートにメモっとけ」
兄が弟に負けるわけにはいかない。六太はヘルメットを掴むと、もう一度乗せろと合図したのだった。

「イッツ・ア・ピース・オブ・ケイク!」

そして訓練の日々は続き――。
休憩中、六太はずっと気になっていたことをデニールに質問した。
『なぜ歩けるのに車椅子や杖を使っているのか?』と――。

いつか本当に歩けなくなるシャロンのことを考えれば、デニールがふざけてるようにしか見えなかったのだ。デニールは『これもすべて訓練だ』と答えた。晩年脚を悪くした父や祖父と同じように、いつか自分も歩けなくなるかもしれない。杖の使い方も車椅子の操作も、今のうちにバッチリ訓練しておけば、後々自分のためになるからだというのだ。

六太はシャロンからもらった手紙を思い出していた。
シャロンも文字を書く訓練で、少しでも病気に打ち勝とうとしていたのだ。コントロールできる限りできることをしよう――そう決意する六太だった。

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