#62
2013年6月15日 「遥か遠くを望む人」
月から帰ってきた日々人は、地球の重力に慣れるため、リハビリを開始しようとしていた。寝て検査して運動してまた寝て、そういうサイクルがこの先45日間続くのである。一方六太は、アマンティに『不安な未来の話の続き』を聞いていた。「私が見たのは……ムッタがとても悲しんで……辛い思いをしている姿……」六太に直接何かが起こるわけではないらしい。「帰ってきたヒビトを見て分かったの、ヒビトもあなたと同じように――辛い思いをすると思う」どうやら六太と日々人にとって大切な誰かが、重い病気になるらしいのだ――。その頃、ゴダード宇宙飛行センターでは――。天文学者であるシャロンが、宇宙開発についてプレゼンをしていた。シャロンの提案は、NASAの宇宙飛行士に協力を依頼し、月面で望遠鏡を組み立ててもらおうというもの。「我々天文学者には、遥か遠くまで行く力はありませんが、遥か遠くを見る力なら、我々に勝る者はいません。きっと実現できます。ここにいるみんなの力があれば――」そして――。六太たち宇宙飛行士候補生たちは、ジョンソン宇宙センターの近くにあるエリントンフィールド空港に来ていた。宇宙飛行士に認定されるためには、ジェット機、T―38の操縦資格が必要なのだ。航空力学に始まり、エンジンシステムなどのメカニック、基本的な航法に各種飛行ルールなど、覚えることは山ほどあるのである。六太はジェット機に乗ることをずっと楽しみにしていた。いつか見た日々人のように、六太も人生初のマッハを体験できるかもしれないのだ。だがそんな気持ちとは裏腹に、六太は眠かった。アマンティの言葉が気になって、ぜんぜん眠れなかったのだ。そこに、プレゼンを終えたシャロンから「ヒューストンまで来たので会おう」と連絡がくる。電話の声では元気そうだが、手を滑らせ携帯を落としたりと、どうも様子がおかしい。六太は不安になっていた。『まさか……シャロンが……!?』